帰ってきた童貞くん

 一時期、リサイクルショップでバイトをしていた時だ。
 仕事の内容としては、社員や店長が買い取った商品。主に服や家電が多い。
 それらの汚れなど落として、値札を貼り、棚に設置する。

 働きだして、数ヶ月経った頃。
 
 いつものように、ジーパンに値札を貼りつけていると、店長が僕を呼びつける。
「童貞くん! ちょっといいかな?」
「あ、はい」

 毎日ミスしてたので怒られるのだろうかと、不安を覚えたが、それはいい意味で期待を裏切る。
 店長の後ろには、一人の若い女の子が立っていた。

「今日から働くことになった。チラ子ちゃんだよ」
 長い黒髪を肩におろして、ニッコリと僕に微笑む。
「あ、チラ子です。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、僕は童貞です」

 初めて出来た後輩だった。
 チラ子ちゃんは仕事に真面目で元気がいい。

 シャイな僕と違って、お客さんとも笑顔で大きな声で応対。
 先輩の僕よりもメキメキと仕事をこなしていく。
 社員からは「チラ子ちゃん、いいよね」と早くも賞賛の声があがりだす。
 マイペースな僕は怒られてばかりだから、先輩面するのも時間の問題か……。
 そう落ち込んでいると、チラ子ちゃんが僕に声をかけてくる。

 ニコニコ笑って、質問してきた。
「あのぉ、童貞さんってカノジョさんいるんですか?」
「え? いるよ」
「へぇ~ 意外ですね♪」
 なんだ、この子。僕を童貞だと思っていたのか?
 失礼だなぁ。

 そして、チラ子ちゃんは話題を変える。
「あの、これってどうやって商品化するんですか?」
 彼女が指差したのは、店長が買い占めた大量のゲームソフトだ。
 ゲームに疎い店長なので、みんながクソゲーだというのに、ボカボカ買い取りしてしまい、在庫で店内が埋まりそうだった。
 他の社員がそれを嘆き、「ワゴンセールで10円で売っちまおう」と言いだしたのだ。
 だが、忙しくてなかなか商品化できていなかった。

「ああ、それね。隣りのカゴに置いてるパッケージに入れて値段貼ればいいだけだよ」
 僕は床に散らばっている赤いカゴを指差す。
 チラ子ちゃんはそれを聞いて、笑顔で答える。
「さすが童貞さん! 私よりなんでも知っているんですね♪」
「そ、そうかなぁ……」


 僕は立ったまま、作業台で家電をラッピングしていた。
 チラ子ちゃんは隣りで、床に散らばっているゲームソフトを集めて商品化しだした。
 彼女は仕事中も明るく元気な子で、鼻歌交じりに作業を始める。
「らんらん、る~る~」
 
 ふと下で作業している彼女に目をやると……。
「はっ!?」
 僕の目に入ったのは、ピンクのレースパンティー。
 チラ子ちゃんは腰をかがめているため、ジーパンからはみ出ていたのだ。

 当時、ローライズが流行っていて、ミニスカよりは防御力が高いのだが、座ると必然とパンティーがひょっこりする事案が多発していた。
 しかも、トップスがへそ出しに近くて、丈の短いキャミソールやチビTを着るのがおしゃれだった。チラ度は急上昇。
 
 さすがにガン見するのは申し訳ないと、目をそらした。
 その日はそれで終わったのだが……。

 大量のゲームソフトを商品化するには時間がかかる。
 チラ子ちゃんは毎日、毎日。僕の隣りに座って作業を続ける。
 もちろん、彼女のファッションはいつも通りだ。

 ある日は紫。またある日は淡いグリーン。
 何かあったのかしらんが、ある日は真っ赤なスケスケのパンティー。
 チラ子ちゃんは「童貞さん、おはようございま~す!」と言うたびに、僕にケツを向ける。

 こんなに毎日見せつけてくるなんて……。
 まさか! この子、僕に惚れているのかもしれない!
 20代の前半。
 腹が減れば、とにかく白飯ばかり食べまくっていた。
 多い時なんかは、大盛カップ焼きそばをおかずに白飯3杯も余裕だった。
 なのに、太らず体重は57キロ前後をキープするから恐ろしい。

 母がいないときは、男三兄弟なので、各々が冷蔵庫のあまりものを出して食べる。
 といっても料理は基本しない。
 生卵があれば、それを白ご飯にかけて醤油たして、卵かけごはんのできあがり!
 それを何杯も食べる。

 ある夏の出来事。
 数週間も冷蔵庫に放置してあった生卵を僕が使ったため、高熱と下痢を繰り返し、急遽、かかりつけの大学病院に入院することになった。
 持病の方か? と医師に疑いをかけれられたが、のちに生卵による食中毒と判明した。

 計2週間ほどの入院だったが、かなりキツかった。

 食事を出されるが、高熱のために口に入れることもできず、ただ点滴で栄養を摂取するのみ。
 腕に注射針を刺しすぎて、皮膚が硬化し、針が刺さらなくなるほど、両腕をブスブスと刺されまくった。
 
 僕が若い男の子ということもあってか、年上の看護婦さんによく説教された。

「あっ! 童貞くん! また食べてないの? だから、点滴はずれないのよ!」
「いやぁ、きついっす……」
 そういうナースの一人は、パイ子さんだ。
 確か人妻で、とても優しい女性だ。
 しかし、若い僕からすると一つだけ、彼女に苦手なところがあった。

「仕方ないわねぇ。じゃあ点滴かえましょっか♪」
 そう言うと、なぜか点滴の袋を僕側から替えようとする。
 逆側から変えれば、なんのこともないのに。
 彼女は毎回、僕の頭上から替えたがる。 

 パイ子さんは言っちゃ悪いが、かなりの巨乳だ。
 制服のトップがぱっつんぱっつんになるほど。
 揺れはしないが、デカい。
 目のやり場に毎回、困る。

「うんしょ……」
 そう言って、僕の頬に二つのデカいメロンをぶに~! と押しつける。
「ふごごご…」
 あまりのデカさに、僕は息ができない。

 たぶん、天然な人なのだと思うが、毎回だ。
 体温を測るときも、必ずといって、胸をおしつけてくる。

「これでよしっと♪ さ、童貞くん。早く治して退院するのよ!」
「は、はぁ……」
「そのためにはご飯をしっかり食べなきゃ!」

 まさか……あの人! 僕に惚れているのかもしれない!?
 前回の続きです。
 まだ入院中の話。

 僕は若かったし、人見知りが激しかった。
 そんなんだから、看護婦さんとも中々うまくコミュニケーションをとれない。

 食事をとれず、点滴ばかりでシャワーやお風呂に入れていなかった。
 クーラーが入っていたとはいえ、真夏だ。
 それなりに汗はかく。

 だから、毎朝ひとりの看護婦さんにこう言われた。

「童貞くん、身体ふこうか?」
 そう言って暖かいタオルを持ってくる。

 しかし、僕はシャイなので、裸を若い女性に見せるのが恥ずかしかった。

「いや、いいです」
「そう……。いつでも声をかけてね」

 その人の名前はツン子さん。
 細身で眼鏡をかけた若いナースさん。
 見た目は少し怖いけど、よく気がきく出来る人という感じ。

 それから毎日ツン子さんは、僕に声をかける。

「童貞くん、身体ふこうか?」
「いや、いいです」

 次の日も。

「童貞くん、そろそろ……」
「いや、いいです」

 それが一週間ぐらい続いた。

 毎日断っていれば、あっちが引き下がってくれるだろうと、僕は高を括っていた。

 しかし、その朝は違っていた。

 ツン子さんはいつものように、タオルを片手にこう言う。

「童貞くん、身体……」
 言いかけて間に、僕は首を横に振る。
「いいっす」

 そう断ると、ツン子さんは見たことないような怖い顔で怒った。

「あなた! そう言って毎日拭かせないじゃない! 早く服を脱ぎなさい!」
 僕はビックリした。
 若い男子だから、裸を見せる行為が恥ずかしいと、なぜわからないのだろうか?

 ビビった僕は、渋々パジャマを脱ぐ。
 そして、ズボンも脱ごうとしたその時だった。

「あ、下はいいのよ」
 苦笑いするツン子さん。
「そうですか……」

 ベッドに座ると、ツン子さんは優しくタオルで僕の背中を拭いてくれた。

「ね? 気持ちいいでしょ……」

 その声は先ほどまでの怖いツン子さんではない。
 とても優しくきれいな声だ
 
「は、はい……気持ちいいっす」
「でしょ♪ ほら? 胸も拭いてあげるから、前見せて」

 ツン子さんの顔を見ると、彼女はどこか満足そうだった。

「しばらくお風呂入れなかったものね、童貞くんは……。キレイにしてあげるからね」
「は、はい!」

 年上の女性に優しくされた僕は、緊張から身体がカチコチに固まってしまった。

 しかし、若い男性の素肌を無理やり脱がせてまで、拭きたい……だなんて。
 ツン子さんは、きっと僕の裸が目当てだったんだ。

 まさか! この人、僕に惚れているのかもしれない!?
 母さんが還暦を迎えたころ、老眼鏡が必需品となった。

 だが、普段はメガネをかけない。
 本を読むときや新聞を読むときぐらいだ。

 だから、よく眼鏡を忘れがちだ。
 肝心なときに「あれどこやったかな?」と言っている。

 あと酔っぱらって、何回か電車に忘れてきたこともある。

 それを見ていた僕は、還暦の誕生日プレゼントはメガネの紐にしようと思った。
 しかし、母さん曰くダサいから好きじゃないとのことで……。

 僕はおしゃれな紐を探しに、博多まで足を運んだ。

 いろんな眼鏡屋さんに行って「おしゃれな紐ないですか?」と聞く。
 店の人はこぞって、難しい顔をしていた。
 半日かけて博多を歩き回ると、やっとのことで、それらしき店を見つける。

 若い女性店員で、眼鏡屋ということもあって、自身もピンクのめがねをかけていた。
 背が小さくて細身の可愛らしいお姉さんだと思った。

 僕が声をかける。
「すいません。おしゃれな紐ありませんか?」
 お姉さんは優しく微笑む。
「何点かございますよ」
 そう言うと、店の奥から何本か紐を出してきた。

「これがオススメですね♪」
 お姉さんが出してくれたのは、ピンク色の細い可愛らしい紐。
「あ、いいっすね」
「プレゼント用ですか?」
「そうなんです。母の還暦に……」
 言いかけて、あることに気がついた。

 母さんは、けっこう太っている。
 自ずと胸もでかい。
 紐の長さが気になる。

「すいません。試しに眼鏡に紐をつけてくれませんか? 相手は女性ですので……」
 僕がそう言うと、お姉さんは快く引き受けてくれた。
「いいですよ♪ 眼鏡を下ろすとこうなりますね」
 お姉さんは胸元に自身の眼鏡をおろす。
 自然と、眼鏡がお姉さんの胸へ、プニンプニンとバウンドする。
 コンパクトサイズだが、綺麗な形の胸だ。

「ん~ 母だとどうかな~」
 失礼だが、このお姉さんとサイズが違うからな。
「もう一回やってみましょうか?」
 そう言うとお姉さんは何度か、眼鏡をかけたり、下ろしたりを繰り返す。

 その度にプニン、プニン……と柔らかそうな胸が、眼鏡を弾き返す。

「ん~」
 僕はその一連の行為をじーっと凝視する。
「どうでしょうか?」
「そうですねぇ。もうちょっとやってもらえますか?」
「いいですよ♪」

 プニプニ……。

「どうでしょうか?」
「もう一回いいですか」

 プニプニ……。

 それが30分間ぐらい続いた。

 悩んだ末、僕は「一度他の店を回って考えていいですか?」とたずねた。
 お姉さんがニコッと笑う。
「全然構わないですよ~」
 何度も僕の注文を聞いてくれて、いい人だなぁと思った。

 その後、しばらく博多を歩いて考えを巡らせる。

 やはり、あのプニプニお姉さんの店が一番良かったなぁ。

「よし! あそこに決めた!」

 もう一度、お店に戻るとお姉さんが笑顔でお出迎え。

「あ、先ほどの……。おかえりなさい♪」
「さっきのやつ、ください」
「ありがとうございます~」

 だが、僕は心配症だ。
 もう一度だけ、お姉さんに言ってみよう。

「すいません、不安なので……。もう一度、紐の長さ見ていいっすか?」
「いいですよ~ ハイッ♪」

 プニン。
 
 ふむ……。

「あの、すいません。もう一度いいですか?」
「構いませんよ♪」

 プニプニ……。

 ハッ!?
 なんてことだ!
 このお姉さん、嫌な顔一つもせずに、接客とはいえ、僕にパイパイをプニプニさせている!?
 それを何度も何度も……。

 まさか! この人、僕に惚れているのかもしれない!?
 とある年の暮れ……。
 僕はカノジョにプレゼントをあげようと考えていた。

 以前からカノジョは「新しいバックが欲しい」と言っていた。
 確かに持っているバックはボロボロだったから、彼氏としてかわいそうだなと思っていた。

 ただ、カノジョのリクエストはなかなかに難しい。
 革製のちょっと大人びたバックが良いなんて言うもんだから、彼氏の僕は探すのに苦労する。

 福岡県民の僕からすると、とりあえず「天神(てんじん)に行くか」となる。

 東京だとどこだろう? 渋谷とか? ま、そんなどこだと思ってもらえれば……。

 いわゆる若者の街で、だいたい若い女の子の買い物は天神と決まっている、気がする。
 なので、僕は普段なかなか足を運ばない天神へと一人向かったのである。

 行くところ行くところ、なかなかカノジョが欲しがるものがない。
 参ったなぁと、あきらめかけていたその時だった……。
 とあるビルの地下で、小さなお店を見つけた。

 主に革製品を扱ったしぶいお店だ。

 店長も中年だが、ヒゲが似合うカッコイイ大人って感じで。
 僕は店に入ることにした。

 それを見て、店長が優しそうに声をかけてくる。

「プレゼントですか?」
「あ、そうです」
「カノジョさんっすか?」
「ええ、まあ……」
 
 しばらく、店長と談笑していると、店の奥にあった電話が鳴り響く。

「あ、すいません。ちょっと、僕外れますんで、お店の若い子に変わりますね」
「は、はい……」

 そう言って、店長が若い女性店員と交代する。

 髪の色が少し明るめで、ショートボブの美人さんだった。
 参ったなぁ。
 僕はシャイだから、あっちの店長の方が話しやすかったのに……。

「こんにちは~ 店長から聞いたんですけど、カノジョさんにプレゼントを探してるんですって?」
 妙に馴れ馴れしい人だなと思った。
 もう真冬だというのに、胸元がざっくりと開いたセーターに、チェックのショートパンツ。
 しかも、網タイツまで履いちゃって……。

「どんなのお探しですか~?」
 僕に質問してくる際も、腰をかがめて胸元を強調してくる。
 まったく無防備な女性には困ったものだ。
 一応、ここは紳士的な対応で……。
「えーっと、革製のなんていうか、長持ちするバックを探していて」
 言いながら、僕はしっかり、あみあみなタイツと胸元を交互に見てあげる。
「でしたらぁ。これなんか、良いと思いますよ~」
 そう言って棚から、取り出したのは、キャラメル色のショルダーバッグ。

 お値段はなかなかに高いが、まあ何年も使うならいっかと納得する。
 しかし、ここでちょっと一つの疑問が浮かぶ。

「あの、すいません……」
「はい? なんでしょう?」
 お姉さんは、僕のカノジョより少し背が高い人だ。
 紐の長さが気になった。

「すいません、バッグをかけてもらっていいですか?」
 僕がそう言うと、お姉さんはニッコリと微笑む。
「いいですよ~ カノジョさんにあげるんですもんねぇ♪」
 お姉さんは、快くショルダーバッグを肩からかけてみる。

「こんな感じですねぇ♪」
 僕は上から下まで、お姉さんの全身を見渡す。
「う~ん……」
「どこか、気になります? バックは腰あたりにかけますもんねぇ。後ろ向きましょっか?」
「あ、お願いします」
 そして、お姉さんは、僕に背を向けた。

 腰をかがみ、お尻をグリッと強調して、僕に見せつける。

「こんな…んふっ。感じですねぇ」
 腰を曲げているため、自然と息が漏れる。
 肝心のバックは、お姉さんのお尻より少し下に垂れてしまっている。

「どう……ですか? カノジョさんにあいそう……ですか?」
「えーっとぉ……」
 お姉さんはずっとお尻を突き出している。対して、僕は顎に手をやり、その姿を食い入るように眺める。
 気がつけば、店に入って一時間ぐらい経ってしまっただろうか?

 最初に応対してくれた店長さんが、戻ってきた。

「お客様、そのバッグが気に入られましたか?」
「あ、そうっすね」
 と言いつつ、二人して、お姉さんの小尻とバッグを交互に見つめあう。

「これねぇ、いい革なんですよぉ。汚れがまたね、いい味を出してくれてね。10年以上持ちますよ」
 店長がお姉さんの尻を指差して、解説をはじめる。
 その間もずっとお姉さんは、尻を向けたまま、顔だけ出している。
「んふっ。私もこれでいいと思いますよぉ~」
 そろそろ、このお姉さんを解放してあげないと、腰を痛めそうだ。
 僕が「もうこれにします……」と言いかけようとするのだが、店長がそれを静止する。

「見てください! この鮮やかな色! 絶対、カノジョさんが気に入りますって!」
「は、はぁ……」
「ちょっと、触ってみてください!」
 そう言って、お姉さんの腰下に垂れているバッグを触らせてもらう。

「ね? やわらかいでしょ? それからね、人間の手の脂がね、つくとまた良い色になるんですよねぇ。僕が海外で直に輸入してきたもので……」
 店長の説明は終わることを知らない。
 僕はバッグを購入するまで、店に入ってから2時間もかかった。

 もちろん、お姉さんは僕にずっとケツを突き出したままだ。

 まさか! この人、バックの意味をはき違えていやしないか!

 ぼ、僕にほ、掘れ……。いや、惚れているのかもしれない!?
 僕は中学生の時にその漫画と出会った。

『隻眼の狂戦士』

 惜しくも2021年、作者様が亡くなってしまった。
 この世で大好きなマンガベスト3の一つだ。

 中学生時代のころ、僕は主人公にめっちゃハマった。
 身の丈を超えるような大剣を振り回す黒き戦士。
 最高じゃないか。

 その主人公は、夜になるとバケモノに襲われるのだが、他のキャラがそれを心配すると、決まってこういう。
 背を向けて、剣を構え「いつものことさ……」と。
 そう言い残すと、夜が明けるまで血まみれになりがなら、戦うのだ。

 くしくも未完で終わった作品だが、僕の人生におけるバイブルとして、今も心に深く刻まれている。
 そして、この作品の特徴として、もう一つある。

 なかなか新刊が発売されないことである。
 これはもう、あんな繊細な描写を書くのだし、先生が苦労されているので、ファンなら待つのは苦ではない。
 何年経とうとも……。

 だから発売日になると、ウキウキで本屋に走っちゃう。
 僕は電車で隣り町の本屋まで新刊を買いにいった。
 帰宅するのが待ちきれず、帰りの電車内でビニールを破ると、読みだした。

『いつものことさ……』

 かっこいい!
 くぅ~ 僕もこんなセリフ言ってみたいもんだ。
 読了すると、本を閉じて余韻にひたる。

 ふと、反対側の席を見ると、ひとりの若い女性が座っていた。
 驚くことに、僕と同じ新刊を手にしていた。
 眼鏡をかけた大人しい子で、食い入るように、あの名作を楽しんでいるようだ。

 なるほどなるほど、こんな若い女性も好きなのかぁ。
 さすがは、先生の作品だ。
 僕は自分のように、その光景を優しく見守っていた。

 その子は僕の視線に気がつくこともなく、本を読んでいる。
 読書家の彼女に感心していると、僕はあることに気がつく。

 それは、彼女の足元だ。
 膝丈ぐらいのミニスカートを履いているのだが、わずかに隙間が見える。
 どうやら、マンガに熱中しているせいで、太ももの力が緩んでいるようだ。
 徐々に、その開き方は大胆になっていく。

 車内を見渡すと、僕と彼女しかいない。

 気がつけば、彼女の太ももは全開だ……。
 つまり、シマシマのパンティが丸見え。
 
 わざわざ僕の目の前に座り、パンツを見せつけるだと!?
 しかも、同じマンガまで用意して……。

 まさか! この子、僕に惚れているのかもしれない!?
 いつものように……。

 了

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