前回の続きです。
 まだ入院中の話。

 僕は若かったし、人見知りが激しかった。
 そんなんだから、看護婦さんとも中々うまくコミュニケーションをとれない。

 食事をとれず、点滴ばかりでシャワーやお風呂に入れていなかった。
 クーラーが入っていたとはいえ、真夏だ。
 それなりに汗はかく。

 だから、毎朝ひとりの看護婦さんにこう言われた。

「童貞くん、身体ふこうか?」
 そう言って暖かいタオルを持ってくる。

 しかし、僕はシャイなので、裸を若い女性に見せるのが恥ずかしかった。

「いや、いいです」
「そう……。いつでも声をかけてね」

 その人の名前はツン子さん。
 細身で眼鏡をかけた若いナースさん。
 見た目は少し怖いけど、よく気がきく出来る人という感じ。

 それから毎日ツン子さんは、僕に声をかける。

「童貞くん、身体ふこうか?」
「いや、いいです」

 次の日も。

「童貞くん、そろそろ……」
「いや、いいです」

 それが一週間ぐらい続いた。

 毎日断っていれば、あっちが引き下がってくれるだろうと、僕は高を括っていた。

 しかし、その朝は違っていた。

 ツン子さんはいつものように、タオルを片手にこう言う。

「童貞くん、身体……」
 言いかけて間に、僕は首を横に振る。
「いいっす」

 そう断ると、ツン子さんは見たことないような怖い顔で怒った。

「あなた! そう言って毎日拭かせないじゃない! 早く服を脱ぎなさい!」
 僕はビックリした。
 若い男子だから、裸を見せる行為が恥ずかしいと、なぜわからないのだろうか?

 ビビった僕は、渋々パジャマを脱ぐ。
 そして、ズボンも脱ごうとしたその時だった。

「あ、下はいいのよ」
 苦笑いするツン子さん。
「そうですか……」

 ベッドに座ると、ツン子さんは優しくタオルで僕の背中を拭いてくれた。

「ね? 気持ちいいでしょ……」

 その声は先ほどまでの怖いツン子さんではない。
 とても優しくきれいな声だ
 
「は、はい……気持ちいいっす」
「でしょ♪ ほら? 胸も拭いてあげるから、前見せて」

 ツン子さんの顔を見ると、彼女はどこか満足そうだった。

「しばらくお風呂入れなかったものね、童貞くんは……。キレイにしてあげるからね」
「は、はい!」

 年上の女性に優しくされた僕は、緊張から身体がカチコチに固まってしまった。

 しかし、若い男性の素肌を無理やり脱がせてまで、拭きたい……だなんて。
 ツン子さんは、きっと僕の裸が目当てだったんだ。

 まさか! この人、僕に惚れているのかもしれない!?