「本当にありがとうね、一葉ちゃんがいなかったら私、どうなってたかわからないよ」
「わたしは背中を押しただけだから。……その代わり、わたしが困ってるときは助けてねっ」
帰りの別れ道、改めて一葉ちゃんにお礼をする。
登校してすぐ、先生にボランティアの空きがあるか聞いてみたところ、まだ決まってなかったらしいので滑り込ませてもらえた。先生は少し驚いている様子だったけれど。
一葉ちゃんの明るい声に、また背中を押される。家に帰ったらまずやることがあるからだ。
玄関の扉を開けて、手を洗うこともなく真っ先にお母さんのもとへ向かう。幸いにも今は何をしているでもなく、テレビをみているだけだったので遠慮なく話しかける。
「お母さん、私、小学校教諭になる。大学は一流大学の法学部じゃなくて、教育大学の初等教育専攻を受けるつもり」
ただいまを言う前に、おもむろに自分の希望を言い出した娘を、お母さんは信じられないものを見るような目で見ていた。実際、信じられなかったのだろう。
「……だから、言っているじゃない。あなたは裁判官か弁護士になるの。奈々もずっとなりたかったでしょう? それにお父さんだって」
「私もお父さんも、別になりたいともならせたいとも思ってないよ。ちゃんと話聞いたの?」
その話は終わりにしよう、といった雰囲気を醸し出すお母さんに、事実の凶器を向ける。
「なんで母親に向かってそんな生意気なことを言うの! お母さんはあなたのためを思って」
「私のためになってないよ。……ねぇ、人を操ろうとするのはもうやめてよ。私は私の人生を歩むから」
早口で捲し立てるので、その途中で無理矢理言葉を挟む。お母さんは何も言えずに、ただ呆然としていた。
もう何も言うことはないので、手を洗うために洗面台へ向かう。
その鏡には、自然な笑顔を浮かべた『私』が写っていた。
「わたしは背中を押しただけだから。……その代わり、わたしが困ってるときは助けてねっ」
帰りの別れ道、改めて一葉ちゃんにお礼をする。
登校してすぐ、先生にボランティアの空きがあるか聞いてみたところ、まだ決まってなかったらしいので滑り込ませてもらえた。先生は少し驚いている様子だったけれど。
一葉ちゃんの明るい声に、また背中を押される。家に帰ったらまずやることがあるからだ。
玄関の扉を開けて、手を洗うこともなく真っ先にお母さんのもとへ向かう。幸いにも今は何をしているでもなく、テレビをみているだけだったので遠慮なく話しかける。
「お母さん、私、小学校教諭になる。大学は一流大学の法学部じゃなくて、教育大学の初等教育専攻を受けるつもり」
ただいまを言う前に、おもむろに自分の希望を言い出した娘を、お母さんは信じられないものを見るような目で見ていた。実際、信じられなかったのだろう。
「……だから、言っているじゃない。あなたは裁判官か弁護士になるの。奈々もずっとなりたかったでしょう? それにお父さんだって」
「私もお父さんも、別になりたいともならせたいとも思ってないよ。ちゃんと話聞いたの?」
その話は終わりにしよう、といった雰囲気を醸し出すお母さんに、事実の凶器を向ける。
「なんで母親に向かってそんな生意気なことを言うの! お母さんはあなたのためを思って」
「私のためになってないよ。……ねぇ、人を操ろうとするのはもうやめてよ。私は私の人生を歩むから」
早口で捲し立てるので、その途中で無理矢理言葉を挟む。お母さんは何も言えずに、ただ呆然としていた。
もう何も言うことはないので、手を洗うために洗面台へ向かう。
その鏡には、自然な笑顔を浮かべた『私』が写っていた。