「ボランティア? 何言ってるの、ただでさえ夏休みは忙しいのに」
帰ってきて早々、ボランティアの話を切り出す。まだ話し始めて5秒もしないうちに言われた言葉がこれだ。
有無を言わさない、厳しく冷たい声。やりたくて仕方がないのに、この声を聞くと怯んでしまう。
「でも、夏期講習は19時からでしょ? 午前中の4時間は支障がはいはずだし、内申にもいいと思うんだけど」
「あのねぇ、司法試験に推薦はないのよ。今のうちに1日じゅう勉強する習慣をつけておかなきゃ、弁護士どころか司法試験にも落ちちゃうわ。馬鹿なことを言わないでちょうだい」
馬鹿はどっちなのだろう。私は小学校1年生のときからずっと、小学校教諭になりたかったのに。その言葉を無視してきたのは、あんたたちのほうなのに。
「私は、やりたいと思ってる」
いつもの私なら、ここで折れていた。だけど今の私には、心から私のことを応援してくれる友達がいる。一葉ちゃんがいるのだ。ここで折れたら、一葉ちゃんにも申し訳ない。
「やりたいとかじゃないでしょ。だいたい、偏差値70も超えてない高校で学年4位じゃない。そういうことはせめて1位を取ってから言いなさいよ」
ここでお母さんが一旦区切り、私の顔を見る。きっとお母さんの目には、表情をなくした娘の姿が見えたことだろう。
「……わかったら、さっさと勉強しなさい。晩御飯は食べてから行く?」
もう、何も言えなかった。あれだけ燃えていた『子どもたちの力になりたい』という思いが急速に熱を失ってゆく。
「わかったよ」
温度のない声が部屋に溶ける。お母さんは「そう言ってくれると思ってたわ」と満足そうに言い、晩御飯の支度を始めた。
ごめんね、一葉ちゃん。チャンスをくれたのに、無下にしちゃって。
届くはずのない謝罪の言葉を、心に綴る。明日ちゃんと謝らなくちゃいけない。
いつものように曇った心で、学校の課題と向き合う。これでもかと基礎をやったおかげで、ほとんど考えることなく回答欄は埋められてゆく。
だから他のことを考えることもできたのに、私は何も考えることのない人形のようにただ手を動かした。そうするのが、いちばん楽だったから。
帰ってきて早々、ボランティアの話を切り出す。まだ話し始めて5秒もしないうちに言われた言葉がこれだ。
有無を言わさない、厳しく冷たい声。やりたくて仕方がないのに、この声を聞くと怯んでしまう。
「でも、夏期講習は19時からでしょ? 午前中の4時間は支障がはいはずだし、内申にもいいと思うんだけど」
「あのねぇ、司法試験に推薦はないのよ。今のうちに1日じゅう勉強する習慣をつけておかなきゃ、弁護士どころか司法試験にも落ちちゃうわ。馬鹿なことを言わないでちょうだい」
馬鹿はどっちなのだろう。私は小学校1年生のときからずっと、小学校教諭になりたかったのに。その言葉を無視してきたのは、あんたたちのほうなのに。
「私は、やりたいと思ってる」
いつもの私なら、ここで折れていた。だけど今の私には、心から私のことを応援してくれる友達がいる。一葉ちゃんがいるのだ。ここで折れたら、一葉ちゃんにも申し訳ない。
「やりたいとかじゃないでしょ。だいたい、偏差値70も超えてない高校で学年4位じゃない。そういうことはせめて1位を取ってから言いなさいよ」
ここでお母さんが一旦区切り、私の顔を見る。きっとお母さんの目には、表情をなくした娘の姿が見えたことだろう。
「……わかったら、さっさと勉強しなさい。晩御飯は食べてから行く?」
もう、何も言えなかった。あれだけ燃えていた『子どもたちの力になりたい』という思いが急速に熱を失ってゆく。
「わかったよ」
温度のない声が部屋に溶ける。お母さんは「そう言ってくれると思ってたわ」と満足そうに言い、晩御飯の支度を始めた。
ごめんね、一葉ちゃん。チャンスをくれたのに、無下にしちゃって。
届くはずのない謝罪の言葉を、心に綴る。明日ちゃんと謝らなくちゃいけない。
いつものように曇った心で、学校の課題と向き合う。これでもかと基礎をやったおかげで、ほとんど考えることなく回答欄は埋められてゆく。
だから他のことを考えることもできたのに、私は何も考えることのない人形のようにただ手を動かした。そうするのが、いちばん楽だったから。