いつから私は空っぽな人間になったのだろう。

奈々(なな)ちゃんって、いつも明るくて頭もよくて、本当にすごいよね!」
「そうかなぁ? 一葉(いちは)ちゃんのほうがすごいと思うけどな。かわいいし」

 嫌味にならないように、不快にさせないように。計算づくで、にこりと微笑む。
 ちゃんと笑えているか不安だったけれど、一葉ちゃんは「そういうところだよー!」と好意的な反応を返してくれる。間違えずに済んだと、ひっそりと胸を撫で下ろす。

「じゃあね、一葉ちゃん」
「また明日、学校でね!」

 別れてしばらくすると、ふっと涙がこぼれ落ちた。あと十数時間は取り繕わずに生きられるから、その安堵でだろうか。それとも取り繕わなければならない日々が、あと何年も、もしかしたら何十年も、死ぬまで続くことへの絶望からだろうか。

 どちらにせよ、この涙を早く止めなければならない。泣いているのを見たらお母さんが心配するだろうし、通行人がいたら不審な目で見られてしまう。

 そうだ、取り繕うのは何も十数時間後の話ではない。帰ってすぐだ。
 そう思ったら家に帰りたくなくなるけれど、そうすればお母さんが心配して、遊んでいないで勉強しろと怒るだろう。
 この日々から逃げたいのに、家へ続く道を踏み外せない。

「ただいま」
 乾いた涙のあとを抱えて、学校で楽しいことがあったような声を出す。今日もまた、1年前の今日と同じような日々を過ごした。