結璃菜は首を傾げる

「実は……俺の師匠が高齢で俺が嫁をもらうまでは死ねんとか最近言い始めてさ」
「ご病気ですか?」

「いや、足は少し弱ってるけどまだ指導もしてるし、書くのは書ける
でも結婚を催促される回数も増えてきてさ

実は今日も午後から仕事でこのホテルを使ったんだけどさ、師匠への依頼がだいぶ俺に回ってき始めたんだよね」

結璃菜はストローでジュースを飲みながらじっと話を聞いてくれていた

「だからまずは婚約者として師匠に紹介して、まあ昨日の話から結璃菜はフリーだし美人だし……
何か久しぶりに人を好きになれそうという俺の勘なんだけど」

結城さんはニコッと笑顔になった

笑顔もイケメンだ
じーっと結城さんの顔を見てしまう

「一応フリだけど結城さんは私が気に入ったと?」

「うん、師匠を安心させたくてどうしようと考えてたのは本当にマジだよ
マスターに聞いてもらえば分かる事だし、相談もしてた」

そうなのか……そこに私が酔って現れたのね

「わかりました!
結城さんの事情と付き合う事はもう少しお互いを知ってからということで……
師匠への婚約者のフリはちゃんと努めさせていただきます」

深々と頭を下げる

「昨日ご迷惑をおかけして、朝からこんな豪華な食事もさせてもらいましたしね」

ご馳走様でしたと手を合わす

こういうちゃんとした所とかいいんだよな〜って思う結城がいた

結城さんは電話をして朝食を下げてもらうように言っていた

着替えておいでとバスローブの私に告げて私は寝室へ

食べすぎたーとキングサイズのベッドに少しだけ横になる
こんな贅沢いいのかな……

寝室には結城さんのスーツケースが置いてあった
仕事でスイートルームに泊まるしマスターとも仲がいいのはこのホテルの常連客だよね

書道家ってお金持ってるのかな……
携帯で結城蒼雲と検索してみた

えっ?これは家?純和風の広い外観が出てきた
どうやら書道教室を
開いてる場所みたいで結城さんの数々の賞の経歴などが書かれていた

へぇ、やっぱり凄い人なんだ
今注目の若手書道家かぁ

私の読めない字がマシになるかなぁ

隣からかすかに声がして朝食を下げに来たのかと思いながら着替えと軽く化粧をすます

「結璃菜、着替えた?こっちに来て」
「はい」

さっきまで朝食が乗っていたテーブルにはケーキが置かれていた
「え?」

プレートには‘ ゆりなお誕生日おめでとう’と書かれてあった

「1日遅れになったけど……」

ガサガサと音がして花束が結城さんの後ろから出てきた
「うそ、可愛い」

「ちょっと朝早くてさ、バラに揃えようかと思ったけど急だったから本数なくて色んな花にしてもらったんだ」

あっ、私がシャワーしている間に出て行ったのはこれを手配するため?

「あ、ありがとうございます」
素直に嬉しかった

結城さんから花束を受け取ると昨日の事を思い出して涙が出てきた