緊張しながら家で楓くんの到着を待つ
ピンポンと鳴り急いでドアを開ける

「どうぞ」
「お邪魔します」

楓くんの荷物はこの前のキャリーケースと違って小学校の時に使っていた鞄タイプの書道用品だった

「これなら私が買うよ」
「まあまあ、色々揃えたらキリがないし、1式入ってて初心者には1番いいんだよ」

まあ確かにこれなら狭い私の部屋でも置ける
「まずはこれを見て」

薄い小冊子をくれた
一通りの流れを教えてくれたがもし級や段が取りたいなら多少のお金はかかると説明してくれた

でもこの時間はプライベートの時間だから無料でっていうことだった

会計は流派の方で雇ってるから色々事務手続きは自分では出来ないと……
それは確かにだろうな

有名ならマネジメントもあるだろうし
「楓くんのお休みは?」

「一応土曜日の午後と日曜日、でも先週みたいに仕事が入ると休みはなくなる時もある」

「そんな貴重な時間をもらっていいの?」
「まあ、一応個人事業主扱いだからまぁ大丈夫」

会社勤めの私にはまだわからない世界だった

「簡単に言うと師匠の弟子はたくさんいるから土曜日の午前中の生徒は俺の代わりに指導に入れるってこと」
「そっか」

平日も午前、午後、夕方、夜と2時間ずつの教室指導だから休憩も食事もちゃんととるよとの事だった

テーブルの上に半紙を置き楓くんの指導が始まった

「お願いします」

始まって1時間
「今日はここまで」
「ありがとうございました」

書いたのは横線と縦線だけだった
「退屈だった?(笑)」
「ううん、もう終わり?って感じだった」

「それならよかった……ちなみにだけどすぐには上手くはならないよ(笑)」
「うん」

「結璃菜の字は時間がかかる」
「汚いから仕方ないよ」

よく講習で何回で区切られるけどそれだけじゃ上手くはなれないということだった

みんな同じ実力じゃないんだからねと
小さい時についた字の癖は中々直らないらしい

筆の洗い方も教えてくれて最初の指導は終わった