まさかこんなに早いなんて思わなかった。
記憶が戻る時はどのような感覚なのだろう。
その時ふと彼の顔を見たら、あんまり嬉しそうではなかった。
「愁…?どうしたの?嬉しくないの…?」
「あ、いや、嬉しくない訳じゃないんだけど、やっぱり怖い…。記憶喪失になったって事は、大きな事故だったって事だよね…?僕のせいで誰かが傷ついてるかもって考えると、怖いんだ…。」
大丈夫だよ、なんて、軽々しく言えなかった。だって、今まで見た事もないくらい、彼は怯えている。彼の優しさは人を救う事が出来るけど、代償に自分の心を傷つけている。たまには、自分に甘えて欲しい。自分を、壊さないで欲しい。
私が黙り込んでしまったから、彼は私に視線を向けた。私が黙ったから、また暗い話をしてしまったって思ってしまったのかもしれない。私は今の気持ちを、そのまま彼に伝えた。大丈夫なんて軽々しく言ってはいけないと思った事、その優しさが自分を苦しめてしまっていると思った事、もっと自分の事を大切にしてほしいこと、全部伝えた。