「は?何よ今更、こんな本ひとつに何ムキになってんの」
咲良はそう言いながらゴミ箱の方へと向かった。お願い、やめて、それ以上お父さんとの思い出を壊さないで…。
その時、
「お前ら、何してんの?」
あの人は、同じ中学で、今年同じクラスになった柊優馬君。そして、梨々花の好きな人。
「いや、あの、私はっ…夏海と話そうと思って!いつも1人だから友達になってあげようかなって!」
どうして好きな人にそんな嘘がつけるのだろう、後から傷つくのは自分自身なのに。
「じゃあその本何?いつも一ノ瀬が大事に読んでるやつだよね、なんでそんなボロボロで、有馬が捨てようとしてんの?」
「え、あ、いや、そのこれは違っ…!」
梨々花は、今更本の事に気付いたのか、自分の背中の後ろに隠した。
どうして柊君、私があの本を大切にしているのを知っているんだろう、私みたいな、空気みたいなやつの事を。
梨々花は下を向いたまま肩を震わせていた。泣いているのだろうか。泣きたいのはこっちだ、大事な物を壊されたんだから。