儚く美しい彼に、幸せの花雨を。

「そっ…か」
彼は涙を零さないように上を向き、手首で拭って私に笑顔を向けた。
「だからね、そんな私にとって大切な人を救ってくれた柊君にも、凄く感謝してるよ」
だから、ありがとう。
「頑張れよ」
「うん!じゃあ、またね!」
私は心のモヤモヤが消えた気がして、本当の笑顔で彼の元から去った。
走って、走って、病院に着いた時には、もう3時になっていた。
「はぁはぁ…愁!」
周りの事なんか気にせずに、私は思いきり彼の名前を呼んだ。
「な、なつみ?!」
「ごめん、私…私が誘っちゃったから…」
愁が生きてるという事実だけで安堵の息をもらす。
「ううん、気にしないで。軽い貧血だって」
彼はそう言いながら拳を握りしめた。
それは、彼が嘘をついている時の癖。
「そう、なんだ。良かった、無事で」
軽い貧血というのが嘘だというのは、どうしてか聞けなかった。聞きたくなかったんだ。
余命宣告された病気の症状だったらと、思ってしまったから。
「それでね、記憶、思い出したよ。愁と過ごした時間、思い出したよ。一緒に過ごした事も、夜ずっと一緒にいた事も、記憶を思い出した愁が私から離れようとした事も…」
彼は目を丸くして、眉を下げた。まるで、ごめんねって言っているみたいに。
「僕が夏海から離れようとしたから、事故にあっちゃったんだよね…本当にごめん」
彼があまりにも悲しい顔をするから、ううん、違うよと話を続けた。
「愁は悪くないよ。私が愁の立場だったら、同じ事してたと思うから」
私は少しでも彼を喜ばせたくて、笑顔でそう言った。
「そう、かな…ありがと」
「ううん、こっちこそごめんね。あ、それでね、今日時間あるかな…?」