「本当にすみません。……私のこと、初めからご迷惑だったんですよね、父に言われたから会っただけで」
 「いや、最終的に決めたのは僕ですから」
 申し訳なさそうに言う澄美子の言葉を、即座に否定した。
 半井専務との話に圧を感じていたのは確かだが、決して強制されたわけではなかった。澄美子に会うことを決めて専務に話をしたのは、他の誰でもない、尚隆自身だ。その点について謝らなければいけないのは、こちらの方である。
 「僕の方こそこんな、澄美子さんを代わりにしたような形にしてしまって、申し訳ありません」
 「いえ、……まあ確かに、それについては文句のひとつも言いたいとは思いますけど」
 でもやめておきます、と澄美子はまだ涙目のまま、笑う。
 「何か言っても私の株が下がるだけで、広野さんの気持ちは変わりませんものね?」
 「え。あ、その」
 「好きな方って、可愛らしい方ですか」
 「可愛い──というか、綺麗ですね彼女は」
 「私よりも?」
 「ええと、澄美子さんとはちょっとタイプが違ってまして。彼女も美人ではあるんですけど……見た目よりも、生きる姿勢が綺麗だなって、ずっと思ってたんです」
 そう、みづほに惹かれたのは、気づいていなかった可愛さに気づいたからだけではない。いつだって背筋を伸ばして、まっすぐに凛とした眼差しで見つめる、そんなふうに彼女が保つ姿勢、生き方を美しいと思ったのだ。
 そうですか、と澄美子がため息をつくように応じた。
 「これから、どうするんですか。その方、会社辞めてしまったんですよね」
 「ええ」
 「私は何も言ってませんし、聞いてませんけど……もしかしたら、父が知って何か圧力をかけたかもしれませんね。だとしたらごめんなさい」
 「それは澄美子さんのせいじゃありません。原因は僕です」
 「……差し出がましいですけど、協力いたしましょうか。父に頼めば連絡先ぐらいは」
 「いや、そんなこと頼める立場じゃありませんから。それにたぶん、じきにわかると思います。昔の知り合いから彼女の友達に、調べるよう頼んでもらってるので」
 それよりも、今やらなければいけないのは。
 「専務、いやお父上、今日はお宅にいらっしゃいますか」
 「ええ、はい」
 「今から訪ねてもいいでしょうか。きちんと、会ってお詫びを申し上げたいんです」