今夜ほど、一人の女を欲しいと思ったことはかつてなかった。彼女を1秒でも多く、少しでも強く感じたくて、何度も繰り返し求めた。みづほが、感覚的にはともかく経験上では慣れていないと前の時に気づいてはいたが、衝動を抑えられなかった。
そしてみづほは、慣れていないはずなのに、こちらの求めに適宜応じてくれた。つながるたびに深くなる充足感、高まる昂揚は、果てがないようにさえ感じられた。
……そうして3度、彼女とつながり。
さすがに息が上がって、二人ともしばらく横たわって休んでいた。だが息が落ち着くと、またもや欲しくなる。回数もわからなくなるほど重ねたみづほの唇を幾度かついばみ、肩から背中の肌をするりとなぞってから、腰を引き寄せる。
みづほがひゅっと息を吸い込んだ。
「ま、まって」
二の腕に添えられた彼女の手のひらからは、制止の意志が伝わる。
「……ちょっと、もう、無理」
声に色が付くなら、きっと真っ赤になっていたろう。そういうふうに思えるような、恥じらいでいっぱいの声だった。
そんな様子にも、尚隆の心にはじわりと火がともる。
──可愛い。
愛おしさが胸に、体全体に満ちる。みづほのまぶたに、頬に、唇に飽きることなく口づけた。みづほは最初こそ、もじもじと恥ずかしそうに避ける仕草をしていたが、やがておとなしく、雨のように続くキスを受け入れた。
あれだけ抱き合ってつながっても、みづほの中にはまだ、恥じらいが存在している。その事実がたまらなく可愛らしく思えた。
もう一度、は彼女のために止めておくことにしたが、体を引き寄せた腕は解かない。体温を、匂いを、まだしばらくは感じていたい。
「……なにか、あったの」
腕の中でみづほが尋ねた。行為の合間にも何度か、何事か言いかけていた。たぶんそう聞きたかったのだろう。
夜に、前触れもなく訪ねてきて、なんの説明もなしにただ繰り返し求めた。彼女でなくとも、誰であろうと疑問に思うのは当たり前だ。……だが、説明する気にはなれなかった。
今この時、みづほに対して、澄美子の話はしたくない。
「──何もないよ」
だから、そう答えた。みづほは顔を動かして、こちらに目線を移したようだった。おそらく、重ねて問いたかったのだろうけど──尚隆が言いそうにないと思ったのか、実際には2度目の問いは発されなかった。
代わりに、頭が再び動き、肩にすり付けられる。
そして目を閉じたようだった。……しばらくして、穏やかな寝息が聞こえ、呼吸がかすかに肌に当たる。
先ほどの問いも声が揺れていたし、相当疲れているに違いない。そうさせたのは自分だから、多少の後ろめたさ、申し訳なさは感じるものの、間違ったことをしたとは思っていなかった。
自分の心に嘘をつかない行動をした。それを後悔してはいない──彼女もそうだと、思いたい。
眠るみづほの耳元に、唇を近づける。
「好きだよ、みづほ」
ささやいて、耳たぶに口づけた。かつてないほどの愛しさに、尚隆の心と体は満たされていた。