抱きしめた彼女は震えていた。
ホテルに入る前から──いや校門前で会った時から、握った手はずっと、かすかに震えていたのだ。
何故なのかは考えなくてもわかる。彼女、須田みづほは、こういう事柄に免疫がないのだ。ほぼ間違いなく初めてだろう。
そう考えて、今の出来事は、夢に見ていることだと尚隆は気づいた。7年前の、あの夜だ。
「本当にいいの?」
問うと、みづほは腕の中でびくりと体をこわばらせた。ややあって、うなずく動きを胸に直接感じる。
ここに来るまでずっとうつむいていた、彼女の表情はよくわからなかった。だが引き結んだ口元からは、悲壮な雰囲気の漂う決意が見て取れた。今もきっと同じ表情をしているのだろう。
みづほが自分を想う気持ちを利用している。その事実を確認しながらも、尚隆は引き返そうとしなかった。言い訳でしかないけど、ここまで来てしまったら男としては止められない。
それに、可愛いと思ったのだ。みづほの仕草を、ここに至るまでに保ってきたに違いない勇気を。
少しだけ体を離し、みづほの顔を上向ける。重ねた唇もまた、細かく震えていて──思いがけない甘さを感じた。ただのキスを、一度目からこんなふうに感じたことは、なかったと思う。
もっと味わいたくなって、舌を差し入れる。驚いて反射的に引こうとするみづほを再び引き寄せて、先ほどよりも力を込めて抱きしめる。
みづほが体をよろめかせて、しがみついてきた。足の力が抜けそうになっているらしかった。引きずるように彼女を運び、ベッドに倒れ込んだ。
ふわ、と尚隆を受け止めたのはベッドのクッションと、みづほの細い体。抱きしめてわかったが、彼女は見た目より凹凸がはっきりしたスタイルをしている。直に触れてみると、出るところは出て締まるところは締まっているのが、さらによくわかる。
形の良い胸の柔らかさも。
「…………っ」
触れた手に軽く力を込めるたび、みづほは歯を食いしばって声を抑える。緊張で固くなった体の、弾むような反応に、じわじわと自分の奥が刺激されてゆくのを感じた。静かだけど確実に燃え広がっていく、熾火のような熱に。
服の上からでもこうだったら、直接触ったらどんなふうに反応するのだろう。それを早く見たいと思った。
ブラウスの裾をスカートのベルトから引っぱり出し、手を一息に差し入れる。はっ、とみづほが驚きの息を漏らした。
驚いたのはこちらもだった。肌が、びっくりするほど手触りが良くて、綺麗だ。もっと触りたいと思う本能に任せて、手をあちこちに滑らせる。
「っ、……は、っ……はあっ」
みづほの息遣いに、徐々に声が混じってきた。我慢と、気持ち良さの間のような、男心を喚起される響き。この女は自分が初めての男なんだ、その思いが急激に強まった。もっと感じさせたいという欲望と、痛くないようにしてやらなければという戒めがせめぎ合う。
愛撫しながら、みづほの服はほとんど脱がせてしまい、いつしかショーツだけになっていた。自分の服を全部脱ぎ捨ててから、彼女の最後の1枚をはぎ取った。
その場所が濡れていることを、直接確かめる。
「ひっ」
おびえた声。当然だが誰にも触られたことがないはずの、その場所。どこよりも柔らかく、そして熱い。触るたびに中から、とろとろとこぼれてくる。
舐めたい。
衝動に従って顔を近づけ、細い足をぐっと開いた。
「────!」
声にならない声が、みづほの体からほとばしったように感じる。そのくらい激しい反応が伝わってきた。足を支える手にも、彼女の中心に触れた舌にも。
「は……あ、や、……んあっ」
頭の上から漏れてくる声は、何かを我慢しきれないような苦しさと、淫らな響きをともなっている。かなり強く、感じているに違いない。初めての女にこんな声を出させている、その事実が誇らしいと思った。
びしょびしょになった場所を舌でひと通り舐め取った時にも、みづほは足を震わせて反応した。今がきっと一番敏感な時だ、と確信し、すでに待機状態だった自分のものの準備を済ませる。
「入れるから、力抜いて」
肩で息をつくみづほが小さくうなずいたのを見てから、姿勢を整え、腰を前へと進めた。
「あ、あ……っ」
中に入った瞬間、みづほが叫ぶように声を上げる。固くつむった目元、半開きの唇、自分の反応を恥じらって顔半分を手で隠す仕草。なんて可愛いのかと、心の底から思った。
彼女がこんなに綺麗だと、誰も知らない。その女を今、自分が抱いている。男の征服感が満たされてゆくのを感じた。だけど、まだ足りない。
「──っ! う、うぅっ……」
さらに進んで奥に達した時、痛みを含んだ短い呻きが聞こえた。ゆっくり腰を引くと同時に、かすれた声と、内側の壁からの反応が返る。
初めて男を受け入れた体が、震えて収縮し、締め付けてくる動きに、理性が飛びそうになる。一度息をついて、再び奥まで差し入れた。組み敷いた体が反り返る。
「ああっ!」
叫びとともに締め上げられる。今度こそ理性が吹き飛んだ。初めてだという現実も気遣いも忘れて、目の前の女をただ一心に抱いた。
外側以上にみづほは内側の感度が良く、そしてサイズが自分に適していた。突き上げるたびに震える壁が締め上げる具合が、本当にちょうど良い具合でたまらなく気持ち良い──そして痛みと甘さの混じる声と、身をよじって喘ぐ表情が、さらに欲望を刺激する。
「みづほ」
自然に、名前が口から出た。一時的な征服欲と所有欲かもしれないが、今はとにかく、ただこの女を独り占めしていたい。
みづほにも、そう思われたかった。もっと強く求められたかった。
「みづほ──俺を呼んで」
「……ひろの、く」
「ちがう、名前」
「──な、おたか……っ」
「俺のこと好き?」
「好、きっ……ああ、あんっ!」
ひときわ高く大きな喘ぎとともに、みづほの内側が締め付ける強さと震えが、増した。そろそろいきそうになっているに違いない──そして尚隆自身も。
ちゃんとゴムを付けておいて良かったと思う。この気持ち良さは絶対最後まで味わいたい。今さら外で出すなんてできない。
「気持ち、いい? このまま、いくから」
「いっ……あっ、あ────あああああっ!」
叫んで跳ねる体を、力の限り抱きしめる。深く、奥底までつながった互いが、その瞬間ひとつになった。