突然のことで驚いた凛花は泣き止み、母さんと一緒に俺の顔を見る。恥ずかしがり屋で自分から行動することが苦手な息子が泣いている女の子にデコピンするとは、と驚いたらしい。

　きょとんとした顔で見てくる凛花に、自分の持っていたバニラアイスを差し出した。

「え……？」
「バニラアイスにはね、ほっぺがおちるまほうがかかっているんだよ」
「……まほう？」
「そう。りんかちゃんもまほうにかかってみて」

　ああ、そうだ。この頃はまだ「りんかちゃん」って呼んでいたっけ。凛花は最初から「こたろー」だったけど。

　驚きながらも凛花はバニラアイスを受け取ってくれて、そのまま一口かじる。途端に頬が緩んで笑うと、思わず頬を押さえた。

「……こたろー、わたし、ほっぺある？」
「あるよ。なくなっちゃった？」
「なくなったきがした……あれ？　あれ？」

　困惑しながらもまた一口。頬がだんだん緩んでいく彼女を見て、母さんはほっと胸を撫で下ろした。

　それから傷口の手当をして、何事もなかったように家に帰ったけど、その間の凛花はずっと「ほっぺが落ちるがする魔法」に困惑していた。

　翌日、僕に質問攻めをして来たときには、どうしようかと思った。なんせまだ小学校にも入っていなければ、料理に興味があったわけでもない。アイスの作り方なんて知らないのだから、適当に誤魔化すしかなったけど、内心ホッとしていた。