最寄駅に着いたのは、すでに夜の七時を過ぎた頃だった。その場で解散となり、凛花と共に帰路につく。程よい疲れを歩きながら感じている。きっと明日は昼頃までぐっすり眠れることだろう。

「溝口くん、楽しかったねー。明日は何するの?」
「寝る。……で、受験勉強」
「そっかぁ」

 出掛ける前のときよりもいくらか会話が減った。久々にはしゃぎすぎて疲れたのもあるが、ゴンドラでの出来事を、きっとお互いに飲み込めていない。

 特に凛花は話している途中で眠ってしまったがために、観覧車を充分に楽しめなかったようだ。最後に撮ったツーショット写真で満足したものの、「同じ景色を見たかった」と軽く落ち込んでいた。

 たわいもない話に相槌を打ちながら、仲介人のことを思い返す。
 凛花の悩みを明かし、大切な人やらを自分で探し出さなければならないのは苦痛でしかない。それでようやくスタート地点になるのなら、どれだけ苦痛でもやらねばならないだろう。仲介人が自分の前に現れ、凛花に目をつけているのも気になるが、冷やかしで現れたら今度こそ殴ってやる。

 頭の中を巡らせていると、いつの間にか凛花の家の前に到着していた。カーテン越しにリビングから光が漏れているから、両親どちらかが帰ってきているようだ。

「それじゃあまたね、溝口くん」
「……凛花」

 凛花が玄関に向かおうとすると、思わず呼び止めた。不思議そうな顔をして振り向く彼女に、慌てて口を動かす。

「誘ってくれて、その……ありがとう」

 強引だったとはいえ、凛花がいなればここまで充実した一日は過ごせなかっただろう。ゴンドラで言いたいことを言ったあの時と同じように、凛花は笑顔で頷いた。

「うんっ……また、また皆で行こうね!」
「……そうだな。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい!」

 凛花が玄関のドアを開けて入っていくのを見届けて、俺は歩き出した。
 元気にただいまをいう彼女の声と、心配性な母親との会話が微かに聞こえてくる。怒鳴り声が聞こえなかったのは幸いだった。