「……なぁ、溝口」

 すると、先程まで寝ていた佐山が目を覚まして話しかけてきた。いつから起きていたのかはわからないが、青山のことだと察しているようだった。

「ゴンドラを二人組に分けるときさ、青山の様子がおかしかったからちょっと聞いてみたんだよ。そしたら『好きなものを見ていると辛くなる』って言ってた」
「好きなもの……?」

 凛花のことだろうか。佐山は更に続けた。

「詳しい話は聞かなかった。でも今日一日、ずっとお前と古賀ちゃんを見てたぞ。何考えているか、俺にはよくわかんねぇけどさ、青山も許したいけど許せないって感じに見えた」
「佐山、お前……」
「……なんてな! それよりさ、俺は牧野ちゃんの方が気になるんだけど?」

 どんよりした空気から一転、佐山は奥にいる牧野に向かって尋ねる。そういえば森田との話はまだ聞いていなかった。
 あまりにも唐突に聞かれて驚く牧野は、途端に頬を真っ赤に染めていた。

「わ、私?」
「そうそう。連絡先は交換できた?」
「れ、連絡先……そう、聞いて! 連絡先教えてほしいって頼んだら、『クラスのグループラインにいるから勝手に登録して』って言われて入れようとしたら、すでに森田くんから登録申請出してくれていたの!」
「お、おおう?」
「あー……森田ならしそう」
「それか最初から登録してた疑惑ねぇ? アイツならやりかねないぞ」

 ただでさえポーカーフェイスを貫いている森田だ。付き合いの長い佐山がいうのであれば、可能性として捨てきれない。

「こ、これって私の方から連絡して大丈夫なのかな、なんて送ればいい……?」
「え、そこ俺達に聞く? こういう時こその青山たちだろ!」

 この後、バスが駅に着くまで牧野の相談に乗った佐山は二度寝を逃した。