さも当然のように笑う仲介人に、俺は凛花を抱えたまま胸倉を掴んだ。顔色を一切変えない仲介人はさらに続ける。

「暴力は良くないね。というか、叶えてあげたんだから当然でしょ」
「叶えたとかルールとか、よくわからねぇけど、お前が凛花の記憶を奪ったのか」
「まぁ、そういうことになるね」
「っ!」
「どうして君がそこまで怒りを露わにするんだい? 彼女とは合意の上で取引をしたんだ。君は一切関係ないだろう」
「……せ」
「ん?」
「お前が凛花から奪ったもの、全部返せよ!」

 力を込めて掴んだポンチョがギチギチとしなる音が聞こえる。「記憶を奪った」と自白した今、凛花をこんな目に遭わせた相手を放っておくことなどできない。今すぐにでも嘲笑う仲介人を殴り飛ばしたかった。

 でももし、凛花がこのまま目覚めなかったらと思うと、簡単に拳は向けられない。それを見通したうえで、仲介人は言う。

「奪ったとは心外だな。でも安心しなよ。彼女はこの観覧車が頂上を過ぎる頃に目覚める。今日の事は覚えているけど、言いかけたことは忘れてしまうけど。そういう取り決めだから、仕方がないね」
「……っ、お前!」
「じゃあ彼女の全部を取り返すために、君は何をくれるの? 自分の命でも差し出すかい?」