この遊園地にある観覧車は、十五分をかけて一周する。運転中の揺れやゴンドラ内で会話を楽しんでいれば、あっという間に感じてしまうだろう。

 森田と牧野、佐山と青山を見送ってから乗り込んだ俺達は対面するように座ると、どんどん小さくなっていく景色に釘付けになっていた。

「すごいね。高いところって学校の屋上くらいしか無いから、なんか新鮮」
「だな。……こんなに広かったんだな」

 登っていくにつれて遊園地全体が見えてくる。来てすぐに乗ったジェットコースターが観覧車の前を通り過ぎると、凛花はあっと驚いて笑った。

「楽しそうだな、凛花」
「楽しいよ! だって高校最後の夏休みだもん。皆と来れてよかったなぁ」

 嬉しそうに目を細めて、外の景色に目を向けて答える凛花。ふと、事故直前に誘われた際、彼女が零した言葉を思い出した。

 ――『私も行きたかったなぁ』

 今思えば、あの時の凛花はすでに自分が事故に遭うことを悟っていたのかもしれない。とても悲しそうで、寂しそうな彼女の表情は今でも鮮明に覚えている。

 ならば、ここにいる彼女は凛花ではないのか。

 俺が知っている古賀凛花で間違いないのに、まるで他人のように見えてしまうのは、自分との記憶だけを失っているからだとしても、認めたくない自分がいる。
 だから自分から距離を置くようにした。俺の知らないところで楽しんで、幸せであればそれでいいと、いつしかそう諦めていた。

「溝口くんはどう? 今日楽しい?」

 雲の合間を縫って差し込んだ夕日が凛花の頬を照らす。艶めいたまつ毛も、口元も、思わず見入ってしまいそうになるほど、素直にきれいだと思った。

「……楽しいよ。お前が押しかけてこなかったら、きっと逃がしてた」
「そっか、よかったぁ。連れ出したかいがあったよ」
「これで二度目だ」
「二度目?」
「凛花が俺を強引に外に連れ出したことが、小学生の頃にあったんだよ」