ちょうど、メリーゴーラウンドから聞こえる音楽が止まった。牧野は俺の腕を掴んで立ち上がらせると、いきなりミラーレスのカメラを俺に向けてシャッターを切った。

「ちょ……いきなり撮るなよ」
「溝口くん、いつまで迷ってるの?」
「え?」
「ちゃんと向き合って話すべきだよ。今は辛いかもしれないけど、後回しにする方が絶対辛いから。これ以上、私の大好きな人たちを苦しめたら、私が絶対許さないからね!」

 カメラを振って牧野は悪戯に笑うと、メリーゴーラウンドから降りてきた凛花たちに向かって、「撮れなかったからもう一回乗ってきて!」と大声で伝える。森田の顔が強張ったのを見て、佐山が茶化し始めたのは言うまでもない。

「……向き合って話す、か」

 考えたこともなかった。……いや、考えないようにしていた、が正しいか。
 凛花が俺だけの記憶を失くし、思い出せないのは事故に遭った瞬間の恐怖が勝っているからだ。瓶に閉じ込めた蛇が怖いから蓋をするように、凛花もそうして恐怖の記憶に蓋をした。ただそこに、俺が紛れてしまっただけの話。俺だけを取り出そうとするのは危険だ。

 でも今の凛花は、無理やりにでも蓋をこじ開けようとしている。その瓶に恐怖が詰まっているとわかっていて、俺が内側から蓋が取れないように押さえている。開けさせるわけにはいかないんだ。

 考えながらメリーゴーラウンドへ向かう。足取りはいつになく重かった。