牧野が目線を逸らした先には、佐山と話している森田の姿があった。
 話を聞けば、集合場所に来る途中にアトラクションは好きか聞いたら「人並みに好きだし、乗り物酔いはしない」とさらっと言われたらしい。せめて一回だけでも彼と同じ乗り物に乗って堪能したい、と想いが強いようで、酔い止めの薬を飲んで備えているのだという。

 何も真っ青な顔をしてまで乗らなくても……と思ったが、今更止めても無駄なんだろう。周りに聞こえないように小声で言う。

「具合悪くなったらすぐ森田に言いなよ。乗っていてもすぐ気付くだろうし。それか女子二人。佐山はともかく、俺は酔って使い物にならないと思うから」
「あ、ありがとう……溝口くんも無理しちゃだめだよ?」

 牧野からの忠告を受け取って、ついに順番がやってきた。
 座席に座り、安全バーに身体を抑えつけられると、まだ動いてもいないのに不安が押し寄せてくる。固定されているとはいえ、回転している最中にバーが外れて落ちたりしたら……?
 そんな不毛なことまで考えていると、隣の佐山が食い気味で入ってくる。

「大丈夫だって溝口ぃ! こういうのは楽しまないと損だって! 久々なんだろ?」
「久々って、小学生以来だぞ?」
「何とかなるって! もう安全バーも固定されてんだから腹くくれって」

 がははと笑う佐山を見て、この時ばかりは彼のお気楽な性格を切実に羨ましく思った。それに加え、彼のお陰で少しは気が楽になった気がした。あくまで、その気になっただけだが。

 スタッフの号令がかかる。乗車している全員がカウント合わせて声を出すと、そのまま流れるように動き出した。急な上り坂をゆっくりと上がっていき、先頭の車両が頂点に達した途端、あっという間に落下していく。途中に半回転、急カーブを繰り返し、歓声と悲鳴が園内に響き渡った。