青山が驚いた顔をして凛花に詰め寄った。

「う、うん」
「おばさんに何か――」
「さ、佐山! 券売機ってどこだっけ? ICカードのチャージするの忘れてた!」

 青山が「おばさん」と言ったのを聞き逃さなかった俺は、慌てて佐山に話を振る。
 いくら青山と凛花がお互いを信頼し合っていて家庭事情を把握しているとはいえ、公共の場ですべき話ではない。俺が遮ったことを訳ありだと察してくれたのか、佐山は眉をひそめて大袈裟に面倒臭そうに言った。

「えぇ? 事前にしとけよ……ったく、行くぞ! 皆は先にホーム行っててくれ」
「待て佐山。俺も行く」
「森田も?」
「行きのチャージ分しかしてなかったからな」
「片道だけって、帰ってこないつもりかよ! ったく、女子は先に行ってて、行くぞ野郎ども!」

 一度凛花たちと離れ、三人で券売機に向かう。実際に足りてないからちょうど良かった。ICカードに乗車賃分をチャージしていると、二人が小声で聞いてくる。

「溝口、さっきのは明らかに不自然だったぞ」
「それな! 何かあったの?」
「いろいろあるんだよ、凛花の家も」
「古賀ちゃん家? そういや一度母親が来て、先生に質問攻めしてたの見かけたけど……」
「元々過保護だけど、事故の後からさらに増した。今日もそれで早めにウチに来たんだよ」
「もしかして、最初にお前が遊園地を断ったのもそれが理由か?」
「……まぁ、ね」
「はへぇ……大変だな、お前も」
「そんなプライベートな話、俺たちにしていいのか?」

 苦い顔をして森田が尋ねる。少なくとも青山を牽制するために遮った話だったはずなのに、簡単に他人に話して良いものではないことは二人とも充分理解しているのだろう。

「お前らなら、誰かに言いふらしたりしないって思ったから……そう思ってたんだけど、悪いか」
「…………」
「……なんだよ」

 今までだったらこんな青臭いことを言うなんて自分でありえないと思っていた。最近の俺は口が軽いと痛感する。

 黙ったまま見てくる二人に耐え切れず、俺が顔を逸らすと、佐山が肩を組んで言う。みれば二人ともニヤリと口元を緩ませていた。

「ツンデレか! ツンデレの小太郎ちゃんか!」
「うっぜぇ……森田、コイツどうにかして」
「今まで心配かけた罰だ。今日一日貼りつかれてろ」
「ってやべぇ! ホーム行かないと乗り遅れる!」

 電車が近付いてきているのに気づいて、佐山に引っ張られながら急いでホームに向かう。この数十秒後、駆け込み乗車をして駅員に注意されるだけでなく、佐山の鞄がドアに挟まって出発が遅れることを、俺たちはまだ知らない。