「あら、凛花ちゃんおはよう! 随分早いわね」
「おはようございます。朝早くにすみません、実は――」
「おじさんたちが早番だったらしい。……着替えてくるから適当に座ってて」
「う、うん」

 濁そうとする凛花の言葉を遮って簡単に説明すると、俺は自室に戻って支度を整える。リビングに戻ると、掃除の手を止めた母さんが、凛花と楽しそうに喋っていた。

「あら。早かったわね。もしかして凛花ちゃんを待たせないように――」
「ちょっと早いけど先に駅に行くか。早く着いたら適当に店入って待っていればいいし」

 冷やかそうとする母さんを放っておいて、凛花に言う。

「で、でも早く着いちゃうけど大丈夫かな? 集合の駅までは皆に比べたら近いし……」
「あの駅、コーヒーチェーン店が入ってるだろ。三階建てのカウンター席、待ち合わせにしている電話ボックスが見える、絶好の見物席だ」
「……というと?」
「今日のメインは森田と牧野。二人とも余裕をもって集合するタイプだから、運がよけば二人きりで待ち合わせ場面が見れるかも」
「そっか……それ、いい!」

 コイツ、本来の目的を忘れてたな?
 仮で出した提案に、凛花が目を輝かせた。別に向かうに丁度良い時間までここに居るのも考えたけど、おばさんが乗り込んでくる可能性も捨てきれない。

「駅前が見えるなら、誰か来てもすぐわかるもんね。溝口くんって意外に気遣いするんだね?」
「どんな手を使ってでも引きずっていく誰かさんに言われたくないけどな」

 まるで悪い事を企んでいるように笑い合う。傍から見ていた母さんがどこか安心したように微笑んで見ていたのは、気付かなかったフリをしよう。