凛花はそう言って頭を深く下げる。突然の行動に、俺は目を丸くして驚いた。
「ちょっ……古賀!?」
「り、りり凛花ちゃん、さすがにお婿は早いわ! いえむしろ来てくれるなら大歓迎だけど……」
「そんなこと一言も言ってないから! 母さんちょっと黙ってて!」
なんて勘違いしがちな言葉を選ぶかなお前は!
そう思って凛花を見ると、彼女は真っ直ぐ俺の方を見ていた。珍しく目元が腫れているのは、さっきまで泣いていたのだと気付いた。
「今日、さっちゃんから聞いたの。溝口くんが私と関わらないようにしてきたのは、私が事故を思い出させないようにするためだって。それだけじゃない、学校で溝口くんが私を突き飛ばしたってガセネタが広まって、周りから批判を浴びてたって。今もそう見てる人がいるって」
「……それが、どうした?」
「私のせいでしょ? だから行かないって言ったんだよね」
どうやって青山と牧野を言いくるめて聞き出したのかは分からない。ようやく最近になって噂がガセだと気付いて落ち着いてきたのに、本人の耳に入っていたら意味がない。
「……ああ、そうだよ。今もまだ言われてる。自分を守るために古賀と関わらないようにしてきた。人ってそういうのを鵜呑みにしやすいから、完全に噂が消えるのは時間がかかるし、忘れた頃に誰かが掘り返す。でもだからって、古賀のせいじゃない」
「きっかけを作ったのは私だよ」
「こうなるように仕向けたのは俺だ」
「じゃあなんで一緒に帰ってくれたの? 話すのが嫌だったら無言を貫けたはずだし、アイスまで買ってくれることなかったよね?」
「それは……っ」
ああ、失敗した。
本当に俺のことを思い出してほしくなかったのなら、すべての関係を断つべきだった。学校に行くことも友達を作ることも、全部捨てるべきだったんだ。――それでも切り離せなかったのは、たとえ思い出せなかったとしても、彼女の傍にいたいと願ってしまったから。