誘いを断ってから時は流れ、七月に入った。夏休みはすぐそこまで迫っていたが、俺の前で遊園地の話をすることはなかった。

 凛花もあれ以来、挨拶程度で留まっている。親友の二人と一緒にいることが増え、再び誘うこともなければ、一緒に帰ることもない。以前と変わらない日々が戻ってきたことに安堵する反面、自分で突き放した癖に少しだけ寂しいと思ったのは、口が裂けても言えない。

 そんなことが続いたある日、帰りのホームルームを終えてすぐ佐山が俺の腕を掴んだ。

「溝口ぃ! 今日こそ行くぞ!」
「行くってどこに……」
「ゲーセン。家に直帰してもやることないだろ」
「受験勉強……」
「それはそれ。森田の塾が休みだからさ、一緒に息抜き行こうぜ」

 俺も佐山も受験生の年だ。特に森田は県外の難関校を受けると言っていて、学校が終わってすぐ塾で追い込むように勉強している。佐山の志望校はわからないけど、俺も県外の大学だ。ある程度追い込んでおかないとボロが出るかもしれない。
 すると佐山は、俺の耳元で小声で言う。

「頼むよ、溝口。森田のためにさ」
「森田? 何かあったの?」
「俺の勘なんだけど、最近気負いすぎてるような気がしてるんだ。ただの思い過ごしならそれでいいけど……アイツの親、学年テストで上位にいないと角が生えちまうタイプだから」

 学年全体の成績優秀者で、入学してから上位をキープし続けていた森田が、一度だけガクッと下がったことがある。最悪のコンディションの中で解いたものの、答案用紙の枠が一つずれていたがために、平均の半分以下の点数を取ったとか。もし枠さえ書き間違えていなければ、クラスの最高得点だったという。ある意味単純なミスを犯した森田に、両親はきつく当てられてしまい、次のテストで盛り返し、信用を取り戻したのだと聞いた。

「確かに、森田が受ける大学って頭が良いイメージしかない」
「だろ。アイツ、基本的にポーカーフェイスを振る舞ってるから教えてくんないんだよなぁ。それに溝口も行くって聞いたら、絶対来ると思うんだ!」
「……わかった、いいよ」

 今まで二人には沢山助けられてきたのだ。手を貸さないわけにはいかない。
 参考書までしっかり入った鞄を背負おうとした森田に、早速佐山が声をかけた。気付かなかったけど、森田の頬が少し痩せこけているように見える。

「ゲーセン? いつものところか」
「そうそう! 溝口も行くって」
「……本当か?」

 森田が少し驚いた様子でこちらを見て聞いてくる。