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「……さっちゃん、千佳。教えてほしいことがある」

 放課後、そそくさと教室を出ていく小太郎を見送った凛花は、さつきと千佳を呼び止めた。

 写真部に所属している千佳は、文化祭用の写真を取りに行くと言って張り切っていたが、凛花の真剣な目を見て教室に留まる。

「私と溝口くんは、家族ぐるみで仲の良かった幼なじみだって、お父さんから聞いてる。高校に入ってから、私達はどうしてた?」
「……それを聞いてどうするの?」

 訝しげにさつきが問う。
 彼女はまだ、小太郎が凛花を突き飛ばしたのだと思っていた。戻ってきた凛花から逃げるのは罪悪感に苛まれるからだと、逃げ腰の小太郎に腹が立って仕方がなかった。

 それとは反対に、千佳は一歩下がって様子を見ていた。噂が流れたときはまさかとは思ったが、誰よりも凛花の傍にいた彼が、苛立ちや恨みで動くような人間ではないと。なにより、凛花の話には欠かせない人物だ。だからいざとなったら自分が前に出て話に加わろうとしていた。

 性格や考えが全く異なる二人が一緒にいるのは、それほどまでに凛花を慕っていたからだ。もちろん、凛花自身も二人が大好きだった。一緒にいて楽しいし、何より高校で出来た親友だ。だから頼ることもぶつかることも、二人のためならできる。

「私は、溝口くんの記憶が一切ない。この間も一緒に帰って、初めて彼の好きなアイスを知った。……でも彼は知ってた。小さい頃の私がバニラじゃなくて、ラムネが好きだったことを」

 好きなモノが同じなら、もっと近付けるかもしれない。――幼い頃にふと思った凛花は、あることをきっかけにラムネのアイスを食べなくなった。地面に落として大泣きしてしまうほど好きだったものだったのに。

「私は思い出したい。溝口くんのこと、できれば全部」
「それで傷ついてもいいの?」

 さつきの容赦ない言葉に、凛花は迷わず頷いた。

「我儘かもしれない。でも私から関わらなくちゃ、きっと彼は自分を許してくれないから」