「凛花、考え直そう? こんな最低な奴と一緒に行ったって楽しくないよ」
「さっちゃん……?」
「チケット一枚捨てたっていいから! 凛花が怖い目に遭ったのは、アイツのせいだって皆言ってるんだよ? 突き飛ばしたかもしれないんだよ?」
「ちがっ――」
「さっちゃん、凛花ちゃんが困ってるから」

 俺が止める前に、牧野が二人の間に入った。普段は大人しく、どこか一歩後ろで見ている牧野は青山の目を真っ直ぐ見て言う。

「噂は噂だよって、前から言ってるよね。それに今の言い方は、さっちゃんが凛花ちゃんを追い詰めてる、脅しと一緒だよ」
「っ、そ、それは――」
「凛花ちゃんが大事なのはわかるけど、脅すようなことはしちゃダメ」
「……っ、ごめん」

 牧野に言われてハッとしたのか、青山は申し訳なさそうに目を逸らした。一瞬で宥めた牧野に、なぜか森田は感心していた。

「牧野って、思ったよりはっきり言うタイプだったんだな」
「ひぇっ!? え、えっとそれはその……」
「見直した。佐山、お前も牧野くらいしっかりしろ」
「げぇ……俺に投げんなよ。でもさ、青山も辛いのわかってるからさ。古賀ちゃんと溝口に任せようぜ」

 そう言って四人が俺に目を向ける。このまま黙っていても何も変わらない。答えは決まっていた。

「……実は前に、古賀から誘われてた」
「えっ……」
「マジか、じゃあ……」
「その時も断った。予定、入ってるからって」

 息をするように嘘をつくと同時に、視界から凛花を外した。
 実際に予定なんかないし、あの時も保留にしたまま断ってもいない。それに何事もなかったようにとぼけていれば、自分自身が忘れられると思っていた。

 ふいに、もし事故に遭わなかったら、きっと引きずってでも連れ出されていたかもしれないと、頭に過ぎった。現にあの時、連れていく前提で聞いてきたのだから。

 でも今の彼女はそんな誘いをしたことすら覚えていないし、強引に引っ張っていくような行動も起こさない。
 だから最初から断ったことにしておけばいい。そしたら誰も傷つかない。

 答えを聞いてホッとしたのか、青山は胸を撫で下ろし、他の三人が残念そうに肩を落とす。凛花だけは黙ったままだった。

「だから、楽しんできて」

 へらっと笑うと、次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。