「どうって……普通にこの公式に当てはめれば解けると思うけど」
「おいおい古賀ちゃん、それってまだやってないところじゃん。俺達が苦しんでるのは、その二ページ前の問題」
「そうなんだけど、今日の小テストに出そうな気がするの」

 彼女が指さした問いは公式を応用すれば解けるけど、授業ではまだ取り扱っていないものだった。いくら小テストがあるからと言って、さすがの先生も先取りして出題しないだろう。
 それは佐山も同じように思ったようで、問題を見ながら首を傾げた。

「小テストって確認テストなんだから、出ないじゃない?」
「……ねぇ古賀、なんでそう思った?」

 数学の楽しさに芽生えた彼女が先の授業を見据えてそのページを開いたならともかく、ピンポイントで問を指定したことが気になった。凛花は少し焦ったように視線を泳がせた。

「ほ、ほら、数学の先生って、他のクラスの授業と混ざるときがあるでしょう? だから今日もあるんじゃないかなぁ……なんて」
「言われてみればそうかもしれないけど……でも一限目だぜ? さすがに大丈夫っしょ」
「……そう、だよね。うん、ごめんね」

 佐山の言葉にハッとして、凛花は恥ずかしそうに笑って誤魔化す。
 ……あながち、間違っていないかもしれない。
 俺は凛花が指した問いをノートの端にメモして解き始めた。彼女の話を真に受けているわけではないが、幼い頃から凛花の直感は良く当たる。
 ただ、尋ねたときに視線を泳がせたことに引っかかった。聞かれると思っていなかったという反応ではなく、聞かれると不味いことだったような、うまく誤魔化そうとしているように思えてならないのだ。戸惑う表情を浮かべた凛花の顔がしばらく離れなかった。