途端、凛花がこらえきれずに笑った。

「古賀ちゃん? 急に笑ってどうした?」
「ううん。仲が良いなって思って。……なんだろう。わからないけど、溝口くんが二人と笑っているを見て、なんかホッとしたの」

 安堵した笑みを浮かべた凛花を見て、あの日彼女に言われたことが頭をよぎった。

『小太郎って友達いる? 私は心配だよ。小太郎が友達と一緒に最後のスクールライフを満喫できるか、ちょー心配!』

 引きこもりがちだった頃、友達なんていなくてもいいやって思ったことがある。実際に凛花にも軽く愚痴をこぼしたこともあったかもしれない。

 だからあの言葉は、ただのお節介にしか聞こえなくて深く受け止めることができなかった。でも自分との記憶を無くした、今の彼女の言葉でようやく気付く。教室で口数の少ない俺が高校生活を楽しんでいるのか、凛花はずっとそれを懸念していたのだと。

「……バカだな、お前」
「へ?」
「俺にだって、友達はいるよ」

 凛花にそう言うと、隣にいた佐山と森田も驚いてノートから顔を上げてこちらを見る。そしてすぐ頬を緩めると、またノートに書き写し始めた。事故の後、校内で噂が出回っていた時でも登校できたのは間違いなく二人のおかげだ。友達だと言ってくれる二人に、返さなくてどうする。
 確証はどこにもないけど、そうであればいい。

「……マジでわかんねぇんだけど!? これどーやんの!?」
「佐山うるせぇ。せっかくの良い空気が台無しだ」
「ヒドイ! 高級カレーにソースと醤油をかけるくらいヒドイ!」
「んなもん、個人の自由だろうが。ちなみに俺はマヨネーズ派だ」
「知らねぇよ!? ちょ、古賀ちゃんと溝口は? なにかけんの?」
「私はソースとかかけないけど、トッピングはチーズが好き!」
「何もかけな……って、脱線しすぎだろ。古賀、お前もやってないなら早くしろよ。佐山どかしていいから」
「話逸らしちゃうの!? ここからなのに!」
「カレー食べたいのは分かった。お前が今のぺージを写さないと次の問題が解けないんだよ。ほら、もっとそっち寄って」

 落ち着いた空気を一言で明るく崩した佐山と自分の間に一人分のスペースを強引に空ける。端の方になって書きにくくなってしまったが仕方がない。凛花は近くの席から椅子を拝借して隣に来ると、ノートの問を書き写していく。
 すると突然、凛花の手が止まると、教科書を取り出してある問いを指さした。

「ねぇ、ここってどうやって解くの?」