一緒に帰って以来、凛花は以前よりも俺に話しかけることが多くなった。
 今までは凛花に話しかけられそうになると、曖昧な相槌で終わらせるか、近くにいた佐山と森田に話を振って逃れていたが、何を思ったのか、佐山たちが俺を巻き込んで話に加えようとしてきた。途中まで一緒に帰ったことがどうやら仇となってしまったらしい。

 この日も教室に行けば、なぜか俺の席を囲んで凛花と佐山、森田がノートを見せあっていた。内容は数学のようで、常に予習を怠らない森田が、眉間にシワを寄せながら黙々と書き込んでいる。いつも真面目に授業を受けて、復習を怠らない森田にしては珍しい。

「……なにしてんの?」
「あ、おはよう、溝口くん」
「おはよう! なぁ、今日の一限目から数学なんだけど宿題見せてくれ! 小テストもあるしさ、頼むよ!」
「森田に教えてもらってるんじゃないの?」
「それが森田の奴、昨日ノートを持って帰るの忘れて今やってんだぜ!」
「うるせぇ佐山、授業ノートの書き写してるところから消すぞ」

 森田がノートから顔を上げて佐山をじろりと睨む。その不機嫌そうな顔を茶化す佐山を、オロオロしながら凛花が見ている。思わず吹き出して笑ってしまうほど、カオスな状況だった。

「笑うなよ溝口ぃ!」
「ごめんごめん、つい。佐山は終わった?」
「うっ……」
「早く写せよ。森田、その問三なんだけど、俺も分からなくて空欄にしてるんだ。ついでに教えてくれないか?」

 席に着いて鞄から数学のノートを取り出し、三人に見えるようにして置く。

「……おう。あ、ここわからなかったんだ。写していいか?」
「もちろん」
「お前も自分で解けよ森田ぁ!」
「解いてわからなかったんだよ。最初からページ真っ白な佐山には言われたくねぇ!」
「……待て。佐山、お前授業ノートも書いてないの?」
「ありえないだろ? 溝口、なんとか言ってやってくれ」
「無理。手遅れだ」
「うぐぐっ……二人して厳しくない!?」
「……ふふっ」