「私ね、おままごとよりも公園のジャングルジムで遊ぶのが好きな子供だったの。だから女の子の友達っていなかったんだよね。
でも、そんな私といつも一緒にいてくれる男の子がいたんだ。顔は良く覚えてない……のかな。失くした記憶の方にあるのかもしれない。すごく近い距離にいた気がするんだけど……ダメ。思い出せないや。
それでね、公園で遊んでいたら、その子のお母さんがアイスを買ってきてくれたの。ラムネ味とバニラ味があって、私はラムネにした気がする。青空みたいにきれいで、シャリシャリする食感が大好きだった。でもアイスをもらえたことに感動して、すっごく嬉しくてはしゃいでいたら、そのまま転んじゃった。当然アイスは砂まみれになっちゃって。しかも同い年の女の子がこっちを見てた。公園だもん。いろんな人が利用する場所だから、当然周囲の目は私に向けられる。アイスを落したショックと同じくらい、恥ずかしくてその場で蹲って泣いちゃったんだ。
そしたら男の子が私の手を引っ張って立たせてくれて、いきなり額にデコピンしてきたの! 今思えば痛かったけど、その時の私はびっくりして泣き止んだ。そしたら、まだ食べてなかった自分のアイスをくれたの。最初は戸惑ったんだけどね。でも彼が言ってくれたの。
『バニラアイスにはね、一口でほっぺたが緩んじゃう魔法がかかっているんだよ』って。
魔法って言われたら気になっちゃって。すごく美味しかったのを覚えてる。子供のときはどうしてもひとつのものに執着しちゃうけど、あの時だけは自然に受け入れたんだ。
……ううん。もしかしたら、ずっとバニラばかり食べてた彼をどこかで羨ましいと思っていたのかもしれない。きっとあの男の子がいなかったら、私はあのまま泣き続けてて……って、なんかごめんね、私の恋バナなんてつまら……溝口くん?」