凛花が事故にあった場所は、学校から駅まで遠回りするルートの途中にある。半日の授業の時や時間がある時はいつもそのルートを通っているが、事故の一件で最短ルートを通るようになっていた。

 駅に着くまでの間の沈黙をどう乗り切るか不安だったが、それは杞憂だったらしい。
 今日あった授業のことやいつも森田と対戦しているゲームなど、お喋りな佐山にはこれでもかというほど話のネタが尽きなかった。凛花も話を聞いては大きくリアクションをとって、楽しそうに耳を傾けている。

「今のおすすめはね、ゾンビを銃で倒すゲーム! よくゲーセンで森田と競ってるんだけど、全然勝てないんだよなー」
「佐山がいちいち出てきたゾンビに驚いてるからだろ」
「うっ……じゃ、じゃあ! 今度こそ溝口と対決する!」
「え、俺?」
「知ってんだぞ! お前、入学してすぐの頃、ゲーセンのシューティングゲーム、全国ランク一位だっただろ!」
「……誰それ?」
「ええっ!? 絶対『コタロー』って溝口だと思ったのに!」
「でもいいじゃん。溝口、たまに教室でアプリゲームしてるだろ。だからできるって」

 いつの間にか二人にゲーマーだと認識されていたとは。驚く半面、佐山の分かりやすいゲームの話を聞いていると、つい自分もやってみたいと思ってしまう。
 そして、俺の隣でうずうずしているのが、もう一人。

「佐山くん、私もやってみたい! 難しいかな?」
「いや、イージーモードもあるからできると思うけど、古賀ちゃんはゲームするの?」
「しないけど、洋画が好きだからゾンビのゲームが気になる!」
「結構グロテスクだよ? 溝口、古賀ちゃん止めなくて大丈夫?」
「キャーキャー叫びながらお化け屋敷を楽しむタイプだから大丈夫だろ……って、なんで俺……?」
「え? だって何でも知ってそうじゃん」

 佐山があっけらかんと放った言葉に、思わず固まった。
 俺だってすべてを知っているわけではない。他の誰よりもほんの少しだけ、一緒にいる時間が長かった、それだけの関係だ。家族でも恋人でもない、ただの幼なじみ。

 そう考えると、今の俺の考えは異常だと思った。たかが幼なじみ一人の為だけに自分の精神を削ってでも突き放そうとするのは、本当に幼なじみだから?
 凛花もどうして俺との記憶だけを失くしたのかも分からない。

「……全部わかってたら、こんなことになってない」

 吐き捨てるように呟く声は、次の話に移った彼らには聞こえなかった。