「……お前ら、二人の世界に入るのはいいけど、さすがに階段は止めとけよ」
階段に座り込んでいると、下から森田の呆れた声が聞こえてきた。佐山がなぜか頬を赤らめて口元を隠している。
「別にそんなんじゃ……佐山は何してんの?」
「恥ずかしいんだと。コイツ、恋愛耐性ゼロだから」
「う、うううるせぇ! つか古賀ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
支えながら凛花を立たせると、ずっと掴んでいた手もほどいた。ずり落ちた鞄を背負い直すと、凛花がじっと見ていることに気付く。
「どうした?」
「ありがとう、溝口くん」
「……別に」
俺は目線を逸らした。なんだか照れくさくて、凛花の顔を見る余裕がない。その間に階段を降りて行く。すでに三人が階段の下で待っていた。
「……何をしているんだ、俺は」
突き放さないといけないのに。
呆れながら小さく溜息をつく。下の階で佐山が急かす声が聞こえてくると、何年か振りに階段を駆け下りた。