「……とにかく、遊びに行くなら来週以降にしろ。女子の名前を出して話をあわせておけば、多分大丈夫だから」
「対策までバッチリ……ちょっと気味悪いぞ」
「これくらいやらないとウチにも迷惑かかるから」

 遠い目をして言うと森田だけが察してくれたのか、肩にポン、と手を置かれた。彼なりの励まし方らしい。

「……わかった。あ、じゃあ途中まで皆で帰ろうよ!」
「それいいな! 森田は……って、準備早くね!?」
「さっさとしろ。溝口、古賀。駅までいいか?」
「もちろん」
「置いてくなよ!」

 三人で話している間に既に帰り支度を済ませた森田に、佐山が慌てて鞄を持ってくる。教科書は置きっぱなしのようで、乱雑に入れているせいで机からはみ出ていた。

「よし行こうぜ!」
「お前待ちだったんだよ、全く……」

 先を歩く佐山と森田の後を、凛花と俺が追う。そっと隣を歩く彼女を横目で見た。
 用が無い限り自分から話す事はないが、凛花は違う。自分から話しかけていろんな人と仲良くなるのが、彼女のコミュニケーションの取り方だ。それはここ数日も変わらない。俺が避けなければ、どんどん距離を詰めてきただろう。そんな躊躇いという言葉を知らなそうな凛花が、こんなに黙っているのが珍しい。
 階段にさしかかっても遠くを見て考え込んでいる凛花に、思わず声をかけた。

「どうかした?」
「え? ……なんでもない! ただ何の話をしようかなーって」
「話?」
「そう! 以前の私がどんな生活をしていたのか、とか……」
「俺よりも青山の方が知っているんじゃない? それより、前を向いて歩かないと――」

 転ぶよ。

 ――と、言いかけた途端、凛花が階段を踏み外した。