「それより、古賀はなんでこの時間までいるの?」

 本来であれば、友人たちと帰っているはずの凛花が目の前にいる。以前に比べて落ち着いた雰囲気の彼女は、なぜか別人に見えてしまう。

「今日はさっちゃんがバイトで、帰りが一人なの。だから一緒に帰りたいなぁって」
「へぇ……ん?」
「え?」
「一緒に? 誰と?」
「溝口くんと」
「なんで」 
「お父さんから聞いたの。溝口くんの家が近くなんだって。だから一緒に帰ろう?」
「……いや、理由になってない」
「同じ方向で同じ道順なら、偶然会ったってことにできるもん」
「別に一緒にじゃなくても」
「一緒は嫌?」

 思いがけない凛花からの提案に眉をひそめた。
 高校に入学した頃は時々一緒に帰ることもあったが、この状況で誘われるとは想定外だった。事故から約一ヶ月経っても、未だにおばさんとの蟠りは解けることなく、家を出る時に会うと、挨拶どころか見向きもされない。おかげで頻繁に連絡を取り合っていた母さんとも途絶えたそうだ。

「おばさんに怒られるよ。お前を突き飛ばしたかもしれないろくでもない奴と、一緒に帰ってくるなって」
「……やっぱり、お母さんに言われて私と距離を置いてたんだね」
「…………」
「もう何回も言われたよ。本当は転校する手前まで話が進んでいたの。でも私はここで三年間一緒に頑張ってきた皆と卒業したい。だから転校はしないし、今日は溝口くんと一緒に帰りたい。……ダメかな?」

 以前の凛花であれば、強引に腕を掴んで引きずっていくところを、彼女は一歩引いて問いかけ、委ねている。根本的に頑固な部分は変わっていないが、どうも調子が狂う。

 とはいえ、このまま放置しても家まで同じルートになるのだから、必然的に一緒になるのが目に見える。頑固なのは、多分俺が一番知ってる。
 面倒臭そうに頭を掻きながらも、机の横にかけたリュックに教科書やノートを詰め込んだ。

「溝口くん?」
「準備して」
「へ?」
「帰るよって、言ってんの」