「……ふざけんな、凛花が自分から飛び出したとでも言うのか?」
「だって君が突き飛ばしていなければ、それ以外在り得ないじゃないか。車や信号機は至って正常だった。運転手はルール違反しているとはいえ、ボクの括りで言えば被害者だ」
「アイツが自己犠牲なんてするわけないだろ!」
「人の深層心理なんてボクが知るわけないでしょ。君はわかるのかい? ずっと一緒だった君なら、彼女の考えていることくらいわかるとでも言うの?」
「それは……っ」

 そう言われてしまうと、パッと出てこない。
 好きなもの、苦手なもの、家族のことや将来の夢――誰よりも長い時間、沢山話してきたはずなのに、何一つ思い当たらない。
 もし仮に凛花が死んでまで何に追い詰められていたとして、どうしてそれに自分が気づけなかったのか。考えるよりも先に苛立ちが込み上げてくる。
 答えられずにいると、仲介人が勝ち誇った顔をして言う。

「彼女には秘密があったんだ。それは幼なじみの君だけでなく、両親にも話していない秘密がある」
「……秘密?」
「相当困っていたみたいだったけどね」
「お前は知ってるのか?」
「もちろん。じゃないと君を呼ばないよ」
「いちいち回りくどい。さっさと教えろ!」
「そう……残念だ」

 横断歩道の白線の上に立って、くるりと一回転した。白いポンチョが揺れた途端、そこにはあの日の古賀凛花が立っていた。

「な、んで……?」
「君は彼女について何も知らないし、自分のことすらも何もわかっていない」

 凛花の姿で発せられたのは、仲介人の声だった。冷めた目でこちらを見ると、彼女の姿をした仲介人は嘲笑う。

「口約束はただの綺麗事だ。自分から動かないから、こうなるんだよ」

 彼女がそう言った瞬間、ブレーキー音と共に車が目の前を横切った。
 少し離れた場所で、ぼとりと何かが落ちた音が聞こえた。