それを毎日のように見ているクラスメイトは「古賀さんが可哀想だ」と、だんだん俺を教室から孤立させていく。誰かが俺に向けて悪態をつくたびに、凛花が大丈夫だと微笑むが、周りにはただの強がりにしか見えない。

 ある日、凛花が職員室に呼ばれていなくなったのを見計らって、青山が俺の前に来て声を荒げた。

「どうして凛花を無視するの? せっかく溝口の為に思い出そうとしてるのに、どうして協力しないの?」
「…………」
「ねぇ、話聞いてる? アンタのことだよ!?」
「はいストーップ! 古賀ちゃんの為に怒るのはいいことだけど、廊下まで響いているからさ。ちょっと落ち着こうぜ」

 何も言わない俺に苛立ちを覚えた青山を、佐山が間に入って宥める。お調子者でクラス内でも男女ともに仲の良い佐山だからこそ、空気を読んで仲介役に名乗り出てくれたけど、青山の苛立ちはさらに加速した。

「佐山、なんでこんな奴の味方するの? 意味わかんないんだけど!」
「古賀ちゃんと溝口のことだろ? 俺達が口を挟んでいいモンじゃねぇじゃん。それに溝口のことも考えて――」
「別にいいよ。佐山」

 これ以上佐山を困らせる訳にはいかなくて、言葉を遮った。心配するようにこちらを見てくるが、小さくうなずいて、青山と対面する。

「古賀が記憶喪失になったのは、あの事故が怖かったからだ。自分を守るために無意識に記憶を失った、その場にいた俺のことも忘れたんだよ。だから俺は関わらない方がいい」
「……なにそれ、そんなのただの逃げじゃない!」
「病み上がりの奴にトラウマを思い出させろって言う方がおかしいだろ。本当に古賀のことを考えて協力しろって言ってるのなら、考え直したほうがいい。……俺がムカつくなら、全員で省くなり貶すなりしてこいよ。それでも俺は毎日学校に来て授業を受けるし、今まで通り古賀とは関わらない。だから癇癪を起こして周りを巻き込むのはやめろ。迷惑だ」

 滅多に声を荒げないくせに、責め立てるような言葉が次々と出てくる。青山は悔しそうに唇を噛んで、黙って教室から出て行ってしまった。教室内の空気は一気に重くなる。

 そうだ、これでいい。――素直にそう思った。

 周りの人間だけでなく、凛花もこれで諦めてくれたらそれでよかった。