聞き慣れた声と共に、リュックサック越しの背中に衝撃が走った。

 勢いあまって前に倒れそうになるのをなんとか踏み止まる。暑さで頭がボーッとしているが、誤ってコンクリートに衝突する訳にはいかない。擦り傷ならまだしも、陽炎が見えるほどコンクリートに肉を置けば、焼肉になってしまう。

 ホッとしたのも束の間、笑いをこらえきれない声が聞こえて振り返ると、幼なじみの()()(りん)()がやけに嬉しそうな顔をしていた。
「……何すんだよ」
「ごめんごめん! 急に止まれなくてさ。()()(ろう)、相変わらず歩くの速いよね。学校から走ってきちゃった」

 凛花はあっついねぇ、と鞄から取り出した下敷きを自分に向けて仰ぐ。決してこちらには風を吹かせてくれないらしい。一つでまとめて横に流した茶髪が小さく揺れた。

「今日は寄り道して帰るんじゃなかったのか?」
「さっちゃんが急にバイト入っちゃったから明日になった! テスト期間中で学校早く終わったし、久々に小太郎と帰ろうって思ったら、ホームルーム終わってすぐ教室出ていっちゃうんだもん。声かける暇さえなかった」
「だって暑いし、学校早く終わったし」
「理由になってないよ!」

 凛花とは何の縁があってか、小学校から中学までずっと同じクラスだった。

 さすがに高校は分かれるであろうとお互いに思っていたが、凛花が第一志望で受けた女子高は不合格となってしまい、滑り止めで受けていた共学の高校へ入学。その高校こそ、俺が合格した学校だった。

 それだけでなく、あろうことかこの高校にはクラス替えがない。結果的に俺達はまた、三年間同じクラスメイトとして過ごすことになった。