病み上がりの凛花が、俺のことを思い出すと宣言して一週間が経った。
遅れていた授業は友人たちの手厚いフォローと、持ち前の努力によって追いついてきた。前髪で隠すように貼っていたガーゼも数日のうちに外され、傷痕も残らずに完治。以前の日常生活に戻りつつある中、それでも凛花が俺のことを思い出す事はなかった。
正直な話、「忘れた記憶を思い出す」と言ってくれた凛花の気持ちは本当に嬉しかった。しかし、俺とのことを思い出すことは、事故当時のことも一緒に思い出してしまう可能性がある。いつ、どこで、どんな言葉をかけて、行動をしただけで引き金になってしまうことだってないとは言い切れない。
記憶が戻った先にあるのは、自分が車にぶつかるあの一瞬の恐怖だ。全身を打って動けなくなる感覚が蘇ったその時、凛花が怯え、苦しむことになってしまっては元も子もない。それだけはどうしても避けたかった。
それに「凛花に二度と関わるな」と怒鳴りつけたおばさんが、学校へ来るや否や、俺が凛花と関わらないように監視しろと言いに来たらしい。その証拠に席替えが行われ、比較的近い場所にいた俺と凛花は、引き離されるように端の席に移動された。これが先生が最初から決めていたのなら悪意があると思ったけど、個人の運次第で決めるくじ引きだったのだから、多少細工されていても仕方がない。
席を移動して遠くになった凛花を見て、内心ホッとしていた。
同じクラスである以上、どうしても必要な時は話せざる得ない。でもそれは他のクラスメイトと何ら変わらないことだ。
最悪の記憶を思い出させないようにするために、俺は必要な伝達以外は無視をするようになった。話しかけられても寝ているフリをしたり、近くの席になった佐山や森田に話を振るようにして、凛花が入ってこないようにする。
「凛花と関わらない」――それが彼女のためであり、自分のためだと自負していた。