明らかに不機嫌そうな顔をする周りのクラスメイトを放って、佐山は森田の授業ノートのページを捲る。事細かに書かれたノートは読みやすいが、かなりの量がある。

「うげっ……ちょっと量多くね? 終わるかな……」
「頑張れ。……そうだ溝口、今日の日付とお前の出席番号が近かったよな。宿題当てられるからやっといたほうがいいぞ」
「なんで……」
「ん?」
「お前らは、なんで俺と一緒にいるの?」

 凛花を車道に突き飛ばしたのは俺だと、どこから発信したかわからない噂を信じているクラスメイトの中で、佐山と森田だけは違った。

 事故の後、すぐに無事かどうかの連絡をしてくれた。連絡先を教えた記憶がないから、共有のグループメッセージから探し出したようだった。それだけでなく、登校してきても以前と変わらずに話しかけてくる。

 多分、二人が同じクラスじゃなかったら、今日まで学校に通えてなかったと思う。

 でもその反面、二人にはそこまでされる義理がないとも思っていた。

 俺に話しかければ、とばっちりで周りから嫌な目でみられるかもしれない。同じ思いを味わわせてしまうのなら、関わらない方がいい。だから事故後の数日は避けていた。

 二人は顔を合わせると、呆れたように小さく息をついた。

「なんでって、したくてやってるだけだよ。それともこのクラスには村八分が義務付けられてるワケ? んなのくそくらえだ! 従う理由もないね!」
「お前、村八分を知ってたのか」
「最近読み漁った漫画に出てきた! ……なぁ溝口、周りなんて気にすんなよ。俺も森田も、お前と話したくて話してるし、一緒にゲームしたくて放課後のゲーセンに誘ってんだから」
「今のところ断られてばっかりだけどな。それよりもさっさと写せ。あと五分もねーぞ」
「やっば! 溝口、早く書け!」
「……ああ、うん」

 ノートに殴り書きをする佐山を、横で急かす森田。以前からずっと見ているその光景に、どこかで安心している自分がいることに気付いた。

 教室という限られた空間にいる、約二十名のクラスメイト。敵も味方もないはずなのに、きっかけさえあれば、例え濡れ衣だったとしても全員が敵にまわってしまう。

 でも二人だけは、最初から批判しなかった。事故が遭ったその日にすぐ連絡を入れ、尚且つ彼の存在に少しずつ寄り添ってくれた。

 「ありがとう」

 小さく呟いたのが聞こえたのか、二人は笑って応えた。佐山に便乗して、俺もノートを写し始めた。