今年の五月は例年よりもひどく蒸し暑かった。
 遠くの地域では梅雨入りし、大雨注意報が発令したとニュースで流れている。都心部にはまだまだ先の話のようだ。昼の街中を歩けば、じりじりと陽炎が揺れていた。

「……暑い」

 熱を放つコンクリートの道を歩きながら、俺は小さく悪態をついた。滴る汗は止まることなく、ポロシャツの襟は汗を吸って湿っている。

 天気予報で真夏並みの異常な暑さと知って、一般的な衣替えの時期よりも早く半袖のポロシャツを引っ張り出したのは正解だった。

 高校の校則では五月末まで学ランを着用することになっているが、「熱中症になりかねない」と早々に半袖のワイシャツやポロシャツが許されたのが数日前のこと。運動部の生徒はすでに半袖をさらに肩までまくり上げていたのだから、学校のイメージとして問題視されていたのかもしれない。

 夕方になるにつれ、暑さも和らいでくると言っていたが、今日から数日間をかけて行われるテスト期間に入ったことで午後の授業がない。よりによって、生徒は気温が一番高い時間帯に帰宅せざる得なくなってしまったのだ。

 それにしても暑い。溶けてしまうほど暑い。
 なるべく建物の日陰を歩いているのに、生ぬるい風がまとわりついてくる。夏の気候は絶対、日本に訪れる時期を間違えた。

「……今日が命日になるかもしれない」

 いっそ家を出る前に遺書でも残しておけばよかったな、などとくだらないことばかり考えて、頭がうまく働いていない。

 だから、後ろからどんどん近付いてくる足音に気付かなかった。

「――みーぃつけた!」
「いっ!? ……ってぇな」