ついさっき病院に来たばかりだというのに、すでに疲れ切っていた。予想外の事情聴取だったけど、こまで神経をすり減らしたことはない。このまま凛花の病室に行っておばさんと鉢合わせしたら、いつものように嫌味を言われると思うとさらに気が重くなった。

 せめておじさんに挨拶をして帰ろうと病室に行くと、中で二人が凛花の名前を呼びかけているが聞こえてきた。

 半開きになっている扉から様子を伺うと、おじさんがベットの前で肩を震わせ、涙を流している。
 そっと中に入って目を疑った。凛花が目を覚まして、おばさんに抱きしめられていたのだ。

「凛花、よかった……!」
「……おか、さ……?」

 小さく開いた口から、かすれた声が聞こえる。ずっと聞きたかった凛花の声だった。

 おじさんは袖口で目元を拭って、医師を呼びに病室を出ていく。俺はその場に立ち尽くしたまま、彼女が生きている事実を未だ飲み込めずにいた。

 嬉しいはずだった。嬉しいはずなのに、違和感が拭えない。

「小太郎、来てたの……?」

 ひとしきり泣いたおばさんが、俺に気付いて手招きした。涙でメイクが崩れた顔は、どこかスッキリしたように見える。

「凛花が起きたの。近くに行ってあげて」
「でも……」
「いいから、きっと喜ぶわ」

 ついこの間まで八つ当たりしていたとは思えない変わりようだった。それほどまでに追い詰めていたのか、はたまた自己管理が大きく崩れたのか。
 なんにせよ、自分はただのサンドバッグにしかすぎなかったと酷く落ち込んだ。

 背中を押されてベッドの横に行くと、ぼんやりとした目がこちらに向けられる。まだ起きたばかりだからか、目が虚ろだった。

「凛花、わかる? 小太郎よ?」

 おばさんが問いかけると、凛花は少し考えてかすれた声で答えた。

「――だれ?」