すると、今まで黙っていたもう一人の刑事が、聞いてようやく口を開いた。

「我々は事故と事件の両方で捜査をしています。自分が彼女を傷つけないと断言しておいて、本当は突き飛ばしたんじゃないんですか?」
「そう思われても仕方がないとは思います。でも俺はやってません」
「でも――」
「証拠もないのに、なんでそんな簡単に人を犯罪者に仕立てるんですか? 警察ってそんなに無能なんですか?」
「……お前、嘘ついて免れるとでも思ってるのか!」
「俺はやってない!」

 警察だけじゃない、学校でも自分に向けられた疑いの目を見ないように、ずっと掻い潜ってきた。それでも無傷で済むわけがない。傷つかない人間なんてこの世に存在しない。

 汚いものを見下す目で見るな。

 すべての疑問と怒りを、俺だけに押しつけてくるな!

「……っ、なんで凛花がこんなことになったのか、俺が一番知りたいのに!」

 ずっと溜め込んでいた怒りや不満をすべて吐き出した。抑さえようとしても、行き場のない怒りを二人の刑事にぶつけた。八つ当たりも同然だった。

 それでも止められない、止まらない。

 誰も答えを知らないのだから、目の前の二人が答えられる訳がない。

 ふと、あの時の光景が頭を過ぎる。車と衝突する直前、微笑んだ見えた彼女の目には涙が光って見えた。

 ――『小太郎が隣にいてくれて、私は幸せだった』

 最後に聞いた凛花の言葉が、いつまで経っても頭から離れない。自分はなんて無力だと、真っ黒な感情が埋め尽くしていく。頭がおかしくなりそうだった。

 今あるだけの想いを訴え、一度落ち着いた頃には待合室は俺達以外、誰もいなかった。ヒートアップする光景を見て、そそくさと出て行ったらしい。

 すると、看護師が「何を騒いでいるんですか!」と注意しにやってきた。鬼の形相に見えたのか、ここまでだと察した刑事が、敵意むき出しのもう一人の刑事を抑えて名刺を差し出した。

「今日はこれで失礼します。何かありましたら、些細なことでも構いませんので連絡をください」
「……あなたは、その人みたいに俺が突き飛ばしたとか言わないんですね」
「君は今の時点で一番の容疑者です。でも君の言う通り、証拠もないのに食ってかかるのは違う。ウチの新人は熱血なのはいいが、まだまだ未熟なんです。大目に見てやってくれると有難い」

 ではまた、と言い残して二人は待合室を出ていく。

「……もう、他の患者さんのことも考えてほしいわね」

 注意をしにきた看護師は、放心状態だった俺を介抱してくれた人だった。よほど刑事の態度に腹が立ったのか、「今度やったら出禁にしてやるから言ってね!」と元気づけるように言った。

 渡された名刺を見る。名前の他に、肩書と電話番号が書かれていた。
 どれだけ高い階級でも、事件を解決しなければ意味がない。躊躇いもなくビリビリに破いて、待合室のゴミ箱に捨てた。