「小太郎? いきなり黙ってどうしたの?」
「……なんでもない。それより、他のアイスじゃなくてよかったのか? 目移りしてただろ」
「うん。どれも気になったけど、やっぱりバニラアイスがいい」
凛花は半分まで食べ終えたアイスを見せながら言う。棒には「当たり」の焼き印が浮き出ていた。
「だってバニラアイスには、『ほっぺが落ちる魔法』がかかっているんだから」
「……それ、当てつけみたいに言うの止められない? 恥ずかしいんだけど」
「私は好きだよ。これがなかったら小太郎と一緒にいなかったかもしれないもん」
フフッと笑うと、また一口アイスを頬張る。あまりにもしれっと恥ずかしいことを言うから、俺は食べかけのラムネアイスを落としそうになった。慌てて口に全部押し込むと、唐突に頭痛が走った。
「いっ……てぇ……!」
「またぁ? 慌てて食べるからそうなるんだよ」
「誰のせいだと……あ」
ケラケラ笑う凛花を余所に、アイスだけが消えた棒に「当たり」と書かれた焼き印があるのを見て声を上げる。彼女もそれに気付いて自分のものを近付けた。当たり棒が二本。これでもう一本ずつ食べられる。なんとなくお互いの顔を見やってふっと笑みが零れた。
「二人そろって当たるなんて、良いこと起きそう!」
「どうだか。案外全部当たり棒だったりして」
「そんなのわかんないじゃんー。まだ皆来ないし、もう一本食べちゃおう!」
凛花はそう言ってベンチから勢いよく立ち上がって振り返る。その姿が幼い頃の姿と重なって見えた。懐かしくて思わず小さく笑うと、凛花が首を傾げる。
「小太郎? どうかした?」
「……いや」
なんでもない、と答えて立ち上がる。凛花は首を傾げたままだった。
「……ずっとお前には敵わないんだろうなって思っただけだよ」
「なにそれ?」
幼なじみだから、ずっと一緒にいたからと、言えないままの気持ちに蓋をしてきた。
俺にとっては凛花が大切だったから、傷つけることも離れることも嫌だった。心地良い距離感に溺れて避けて通ってきたのだ。
だから凛花が事故に遭った時、助けられなかった自分を責め、伝えておけばよかったと酷く後悔した。自分が追いやられているときの周りの視線だって耐え切れなくて蹲るときも何度もある。
でもそれよりずっと、ずっと前から凛花は辛い思いをして、後悔していた。もっと早く気付けていれば、なんて何度思ったことだろう。
過去には戻れない。
ならば感じた喜びも悲しみも、成し遂げられなかった後悔も全部、全部背負って生きていく。
息が苦しくて吐き出しそうになっても、他の記憶で埋めるしかなくても、二度と後悔しないためにここにいる。
そしていつか離れる時が訪れたとしても、お互いに「君の隣にいられて幸せだった」と胸を張って言えるくらい、この先もずっと大切にしていきたい。
願わくば明日もその先も、彼女の隣にいるのが俺でありますように。
「行こう、凛花」
夏の終わり、俺は彼女の手を取って再び歩き出した。
【溶けて消える、その前に】 完