「小太郎、中庭の模擬店でアイスが売ってたんだけど食べない?」
「ここにきてもアイスかよ……」
「だって自家製アイスって美味しそうじゃん!」
「……食べるか」
取引として提示された「一生バニラアイスを食べられない」という条件は今もなお続いている。一生付きまとうのはわかっている。ただ一度だけ食べざる状況があって、その直後に腹を下してしばらく動けなかったことがあった。体がバニラアイスを受け入れないものと判別したらしい。好きなものが食べられないことがこんなにももどかしいと悔やむ反面、他のアイスが食べられるだけマシだと思うようにした。
「小太郎、何がいい?」
凛花が模擬店の前に設置されたクーラーボックスを見ながら聞いてくる。すべてアイスバーになっており、中には出たら一本無料で貰えるという「当たり」が混ざっているらしい。種類も豊富で、定番のバニラやチョコレート、グレープ、果肉入りミックスジュース。そしてコーラやラムネ入りソーダといったものまで用意されていた。財布を出しかけたところで、凛花が「私が奢ります! 好きなものをどうぞ!」と言ってきたのでお言葉に甘えさせてもらう。
「じゃあ……ラムネ」
「私はバニラ! 一本ずつください!」
手際よく渡されたアイスバーを持って端のベンチに座る。以前ベンチの下にアイスを落としたのを気にしていたのか、凛花は慎重な顔つきで頬張った。
「落とすなよ」
「落としませんー! この間のはアクシデントだもん。……あ」
ふいに気が抜けた声がして見ると、自分の持っているアイスをじいっと見つめていた。
「どうかした?」
「……ううん。もしかしたら、私がベンチでアイスを落としたのって、仲介人がルールを破るのを阻止するためにわざと落とさせたのかなって思って」
仲介人――久々に聞いた名前に、俺は口をつぐんだ。あの日以来、姿を見たことがない。今頃何をしているだろうか気になるが、俺が戻る時に言われたのをふいに思い出した。
――「人生がちゃんと終わるまで二度と会わない事を願うよ。――君にも、彼女にもね」
きっとアイツは二度と俺たちの前には現れない。そんな気がした。