――そして、今に至る。

 世間の休日で多くの人でキャンパス内が賑わっている中、俺と凛花は他の四人より先に志望校の大学を見てまわっていた。真新しいものばかりが新鮮に映るのか、凛花は俺の腕を引っ張って先へ進もうとする。

「ちょっと待って……待てって! そんなに急ぐことないって」
「えぇ……でも一日で見てまわれないよ?」
「あとで青山たちと合流するんだから、少しくらい見逃してもいいだろ」

 少し開けた場所まで来て言うと彼女はそっか、と小さく笑った。


 凛花は記憶が戻った日を境に予知夢を見なくなった。

 それは仲介人が取引に応じてくれていることの証拠だろう。彼女自身にも特に変わった様子はなく、何事も問題なく過ごしている。

 あるとすれば、俺たちの関係が少し変わったことだろうか。

 仲介人の取引を終えて戻ってきたあの日、俺はすべてを打ち明けた。
 助けてくれてありがとうとか、突き放そうとしてごめんとか。言いたいことを全部話すと、凛花は首を横に振った。同じように凛花も言いたいことを吐き出して――半分くらいが社交的になれっていう指摘だったけど――、今回の件でお互いがどれほど自分を責めていたのかを知った。

 そのうえで俺たちは「お互い様」と話を終えることにした。これ以上話が続いても平行線のまま解決することはない。だからすべてを受け入れていくこと決めた。

 不格好ながら想いも伝えたけど、凛花が顔を真っ赤になって金魚のように口をパクパクと動かして固まってしまったのは、どうしたものかと首を捻ったものだ。落ち着いた後に返事は貰えたものの、「すぐ答えられなかったのショック!」だと項垂れていたっけ。

 数日ぎくしゃくしたけど、気付いたらまたいつも通りの距離感に戻っていた。もう隔たる壁はない。事故の記憶を思い出させないようにと張っていた規制線代わりの「古賀」呼びもなくなった。