今日も学校帰りに、凛花の眠る病室に立ち寄ると、病室の前にスーツ姿の二人組の男とおじさんが話をしていた。おじさんがこちらに気付くと、片手を上げて挨拶してくれた。小さく会釈すると、スーツ姿の一人が近寄ってくる。

(みぞ)(ぐち)小太郎さんですね。警察です。少々お話よろしいでしょうか」

 警察手帳を見せながら小声で聞いてくる。

 事故のショックで事情聴取を後回しにしていたことを、今の今まで忘れていた。家で待機しているより、人混みに紛れていた方が気が紛れると、両親に無理を言って学校に行かせてもらっていたが、本来であれば自分から時間を作るべきだったかもしれない。

 俺が了承すると、スーツ姿の二人組の男改め、刑事と共に休憩室に向かった。会話を楽しんでいる患者とその家族がいたけど、早く済ませたい一心で人目を気にしている余裕はなかった。

 端にあるテーブルに二人と対面するように座ると、早速向こうから口を開いた。

「さて、思い出すのも辛いかもしれないけど、あの日何があったのか教えてもらってもいいかい?」
「……ざっくり話してはいましたよね。事故直後くらいに。あまり覚えてないんですけど」
「そうだね。でももう一度話を聞きたいんだ。あの時の君は、彼女が事故に遭ったという事実を飲み込むに精一杯だったと思う。一週間を経て、何か思い出したことがあれば教えてほしい」

 気味が悪いくらい、丁寧で親切な言い方だった。たった一週間で傷が癒える人間がいるなら、どうやって立ち直ったのか教えてほしい。

「……あの日、自分は学校が終わって、いつも通りのルートで帰宅する途中で、追いかけてきた凛花と合流しました」

 同じ話を何度繰り返したことだろう。それが自分の中でテンプレートになっているのか、出てくる言葉を選ぶ手間は省けた。途中で合流し、コンビニでアイスを買い食いをしながら、まだ一ヵ月も先にある夏休みの予定を話していた。――たったそれだけだ。

 ただ、友達と遊園地に行く約束に巻き込んだくせに、自分は「行きたかった」と羨ましそうに呟いた後、様子が変わったように見えたことだけは伏せた。

 まるで凛花自身が死を望んでいたと受け取られるのが嫌だったし、俺自身が信じたくなかった。