月日は流れ、九月。
夏の暑さが残る中、俺と凛花は県外の大学で行われている文化祭に訪れていた。先を歩く彼女は、見慣れないキャンパスな講義室に目を輝かせ、早く早くと急かしてくる。
「お前、この後青山たちと合流するのに短時間で全部まわるつもりかよ」
「目星はつけてきたんだけど……やっぱり気になるゼミばかりで、目移りしそう!」
――きっかけは夏休み明けのこと。
夏休みの課題が終わらず放課後に居残りとなった佐山に付き合わされていたところ、気分転換で遠出をしないか、と森田が提案してきたのだ。学校と塾で忙しい森田からなんて珍しい。話を聞けば、牧野が志望する大学の文化祭に行くことになったという。
「でもそれってお前と牧野ちゃんのデートだろ? 俺達はいないほうがいいんじゃね?」
「問題ない。青山と古賀も行く。それに溝口は別の大学の文化祭に行くんだろ?」
「え? 何の話?」
俺の志望校の文化祭も、牧野の志望校と一日遅れで行われることになっているが、行くなんて誰にも言っていない。むしろ行くかどうかさえも考えていなかった。……ということは。
「……凛花、お前か」
陰から様子を伺っていた凛花をじろっと睨む。その後ろには青山と牧野が顔を覗かせていた。
「だ、だっておばさんに聞いたら暇だって」
「仲がいいからって親から聞き出すなよ……」
「それに小太郎と一緒ならいいって、お母さんから許可貰ったんだもん!」
凛花の記憶が戻ったその日の夜、彼女の母親が今まで俺にきつく当たってきたこと謝ってきた。何がきっかけだったのかはわからないけど、翌日から以前のように接してくれて、母さんとの仲も元通りになったという。
そして放課後に念願のゲーセンに立ち寄ることを伝えると「小太郎もいるのよね? 遅くならなければ良いわよ。一緒に帰ってきなさい」と言われたようで、これには凛花も目を丸くして驚いていた。信用してくれたのはありがたいけど、かえってプレッシャーが増えた気がする。
どうせ文化祭に行く話をしたときに「小太郎も一緒」だとか言ったのだろう。昔からの唐突な行動に全く反省の色を示さない凛花のと隣で、青山が呆れた様子で言う。
「アンタたちの志望校と千佳の志望校が近いのよ。文化祭も一日違いで始まるから、被ってる日に三人で行こうかって話をしてたら、すでに千佳が森田と一緒に行く約束をしてたのよ」
「それを聞いた俺が、佐山と溝口も巻き込もうかって提案した」
「元凶はお前かぁっ!」
佐山は握っていたシャーペンをビシッと音が聞こえそうなほど勢いよく森田の方に向ける。それが秒で森田の手によって叩き落とされてガックリと肩を落とした。
「なんだよ……皆してさ、青春謳歌しすぎじゃない? 佐山クン寂しいっ!」
「……ん? ちょっと待って青山。今、アンタたちって言った?」