そこで提案されたのは、事故が起こったという既成事実を作り上げることだった。人を勝手に別世界に連れてくる仲介人にとって瞬間移動はお手の物らしい。

「チャンスは一回きりなんだ。こればかりは申し訳ないけど、君はまたあの事故現場の横断歩道の前で立っていてくれないか? 車が突っ込んできたタイミングでボクが君をまた呼び戻す。周りには姿が見えないようにしよう。……ってことは、問題は証人か。予知夢を見た彼女が一番なんだけど……そうだ、電話で彼女に電話をしよう。意味深な言葉を並べれば、今までのことを思い出した彼女なら事故に遭ったと勘違いをするはずだ」
「記憶が戻ったばかりで混乱するんじゃ……」
「そのための周りの人間だろ? 君が友人を信じて託したことに敬意を払って、ボクは手を貸すと決めた。……それに、君がすぐ彼女の元へ戻ればいいだけの話さ」

 キャスケットの下に見える、三日月みたいな口が更に細くなる。一瞬騙されているのかと思ったけど、仲介人はすぐに実行に移った。

 ただ、ここで一つ大きな問題が起こってしまう。
 急いだ仲介人が、俺の鞄を回収し忘れて凛花たちが公園まで辿り着いてしまったのだ。

 わざとなのかと問い詰めたけど、凛花の記憶からバニラアイスを消し忘れたミスもある。基本的に確認を怠るタイプなんだろう。今までで一番心臓に悪かった。結果的に事故を起こす事に成功したが、帰りがけに再度確認する。

「これでもう、大丈夫なんだよな?」
「君は他人を信用しないよね。完璧とまでは言い切れないけど成功したんだ。これからはボクのことを忘れて生きればいい。人間への興味は奥深いけど、ひとまずお腹いっぱいだからね」
「仲介人……」

「人生がちゃんと終わるまで二度と会わない事を願うよ。――君にも、彼女にもね」