「俺が渡せるもの、全部くれてやる。だから――俺と取引しろ」

 確実に渡せるものがないとわかっていながら、俺は目の前で困惑した表情を浮かべる。我ながらバカなことをしていると自覚しつつも、これ以上何も思いつかない頭で出した奥の手だった。

 すると仲介人は何を思ったのか、突然腹を抱えて笑い出した。

「アハハッ! いいね、いいね! その感情で動いちゃって後がない焦っているその様、素晴らしい。感動したよ」
「……お前、絶対人の話聞いてないだろ」
「聞いてるさ! 相変わらず失礼だな、君は」

 そんな見下された感心の仕方をされると疑わずにいられない。ただでさえ、仲介人の印象は最初から最悪だったのだ。ひとしきり笑い終えた仲介人はふう、と一息を入れてから言う。

「どうせ君のことだ。彼女の予知夢を見れないようにしろってところだろう? 結論から言えば可能さ。むしろご褒美だね」
「じゃあ……」
「いいよ。取引に応じてあげる。ただし、問題があるんだよね」