でも最近の私はなんだ。

 転んだ時に差し伸べてくれた時も、夢の中で自分の方が危ないのに助けてくれたときも、お礼なんてまともに一つも言えた覚えがない。高校に入って見えない壁ができてしまったのも、きっと彼と向き合うことが怖かった私の弱さからだ。

 だから早く帰ってきて。

 ぐしゃぐしゃの顔で話す私を見て笑って。

 もう逃げないから。

 ちゃんと向き合うから。

 真正面から好きだと言わせて。

「っ……小太郎っ‼」

 願ったところで何が変わるかわからない。神様を大嫌いだと言った私に、祈る資格なんてないかもしれない。それでも鎖を掴んだまま、両手を包み込むようにして握った。ブランコの座面には大粒の涙が零れて染みを作った。

 すると、公園の入口の方から砂利を踏みしめる音がした。すぐ近くが住宅街だから、帰路につく途中の人が公園に立ち寄ることだってあるだろう。しかし、なぜかその音は真っ直ぐ、ブランコの方へどんどん大きくなっていった。

「――何してんの、凛花」

 砂利を踏みしめる音が止むと同時に、頭の上から声をかけられた。聞き馴染みのある低い声色にまさかと思い、おそるおそる顔を上げる。履き潰したローファーに制服姿、困った顔をした彼は、私と同じ目線になるように屈んだ。

「なんで泣いてんの? またおばさんに怒られた?」
「……小、太郎……?」
「他に誰がいるのさ。……もう暗いから帰ろうよ、凛花」

 彼が――小太郎が、私の目の前に手を差し出した。
 ――ああ、なんで。不安なときに君はいつも隣に居てくれるんだろう。

 ずっと握っていた鎖を離すと、ブランコが大きく揺れるのをお構いなしに、勢いよく立ち上がった私を小太郎は両手でしっかりと抱き留めてくれた。

「勝手に消えないでよ! 心配したんだから!」
「消えてないじゃん。ちゃんとここにいるよ」
「……うん」

 夜空に星が瞬くその下でうっすらと笑う小太郎の顔を見て、また涙が溢れてしまう。そんな私を小太郎は呆れたように見ながらも、泣き止むまでずっと抱き締めてくれていた。

 小太郎がここにいる。――今はそれだけで充分だった。